日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #01

ソーシャルグッドからブランドパーパスへ。P&G パンテーンは、なぜ社会問題を題材としたのか?

海外事例では、すでに注目されているブランドパーパスへの注力


 カンヌライオンズなどの海外賞や海外カンファレンスでは、数年前から“ソーシャルグッド(社会に良いこと)”という単語が頻発し始め、ここ2~3年は、“ブランドパーパス(ブランドの存在意義)”が盛んに語られています。

 “ソーシャル・グッド”は、広告やブランドが、「社会に良いことをする」といった文脈で語られてきました。カンヌライオンズでは2013年にアウトドア部門のグランプリを受賞したIBMのSmarter Cityは、屋外看板そのものが雨宿りできたり少し休めたりと、「世の中の役に立って」いた広告コミュニケーションです。ソーシャル・グッドの典型的な海外事例です。
 

 注視したいのは、この頃は、まだ“賛否両論”の事象ではなく、「誰が見ても社会の役に立っていること」を対象にしているものが多かったことです。ソーシャル・グッドとブランド・パーパスの語られ方には重なり合う部分も多いのですが、ブランドパーパスというキーワードに比重が移るのと、“賛否両論”の事象をブランドが取り上げるようになるのとは、軌を一にしていると感じます。

 今年、2019年のカンヌライオンズでの話題作は、まさに、ブランド・パーパスを掲げて“賛否両論”に分け入った事例でした。そして、結果的に大きな成果を挙げた事例でもありました。

 ナイキ社が著名なタグラインである“Just Do It”導入30周年を記念して展開した事例「Dream Crazy」がアウトドア部門とエンターテインメント・フォー・スポーツ部門でグランプリを受賞したのです。

 その中で最も注目を集めたのは、アメリカン・フットボール選手コリン・キャパニックを起用したこと。キャパニック選手は、2016年に人種差別反対の意志を示すために “起立してアメリカ国歌斉唱をする”ことを拒否し、その後契約を解除され、2年間プレーをしていない元スター選手です。

 このキャパニック選手の起用を巡って、反対派が自分のナイキシューズを燃やし、トランプ大統領がツイッターでナイキを批判し、ナイキの株価は3%下がったそうです。しかし、何人かの著名人がテレビなどでナイキの姿勢を応援し始め、徐々に売り上げも回復、株価も起用前よりも上昇したという事例となります。
 

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