連載「世耕さん、広報の魅力って何ですか?」 #02
【近畿大学 世耕石弘氏の視点②】日大アメフト問題、スポーツだからこそ炎上した
「スポーツは怖い」−熱狂に包むコンテンツの副作用
一連の日大アメフト報道を見て、私は「スポーツは怖い」という感情を抱いた。スポーツは、多くの人を魅了し、熱狂に包むコンテンツである。企業に限らず、大学や高校も、社会貢献や人材育成、組織のPRの役割を担わせて投資している。ただし人々を魅了し、熱狂に包むコンテンツなだけに、ときには幻滅させ、失望の淵に突き落とし、怒りを生み出すなど、反作用も大きい。
前職の近畿日本鉄道時代の2004年、保有するプロ野球球団の統合問題の報道対応を行ったときに、その怖さを実感した。当時の近鉄は、バブル時代の負の遺産の処理のため、聖域なき不採算の子会社の整理や人員整理をせざるを得ない状況に追い込まれていた。
そうした状況の中、プロ野球球団も40億円以上の赤字を計上しており、当然、整理の対象となった。当時、決算発表記者会見に来る各メディアの経済担当記者は経営層に「赤字の球団はどうするのか」という質問を常に投げかけ、経営層も心理的に球団を整理対象として含めていくようになったと思う。
何よりも企業にとって重要なステークホルダーのひとつに株主があるが、無配に転落しており、論理的には当然の流れであった。その中でファンはじめ、様々な方面への配慮の中で他球団と統合という決断に至り、記者発表を行った。そこから私が過去もその後も体験したことのないような、炎上を味わうことになる。
「球団も整理の対象にすべき」という意見であった各メディアの経済部記者はさっとひき、代わりに連日スポーツ・社会部担当記者が押しかけ、「神聖なスポーツを切り捨てた悪人」的な存在として取り上げた。逆に、阻止に向けて動き出した選手会や買収を提案した企業を「正義のヒーロー」として持ち上げ、「悪VS善」の構図に仕立てていった。そうした報道を受けて、ファンからの苦情も私の部署に殺到した。
誤解のないように申し述べるが、この一連の流れを私は否定も肯定もするつもりはない。ただし、スポーツは人間の感情に訴えかけるコンテンツであり、論理が通じない世界であることを、私は体感した。その後、近鉄の経営状況は好転し、日本一のビル「あべのハルカス」を建設するなど、復配に至った。当時の経営層の決断は、今となっては英断であったと思っている。
そして、大学に転職後、広報業務に携わるようになった。私自身も大学時代は体育会のクラブに所属したこともあり、スポーツ報道に携われることを喜んでいたが、再び「スポーツの怖さ」を体感することになる。