連載「世耕さん、広報の魅力って何ですか?」 #02
【近畿大学 世耕石弘氏の視点②】日大アメフト問題、スポーツだからこそ炎上した
炎上の対象が、組織全体のあり方に発展する
残念ながら、現在の大学スポーツは箱根駅伝を除き、昔ほど注目されていないのが現実で、ポジティブな面の取材はそれほど多くない。本学でも何度か体育会クラブの不祥事報道対応に携わったが、いつも想定を超える規模に発展した。私は、体育会の指導者や学生向けのコンプライアンス研修で、自校の過去の報道事例と、ある銀行の行員が客の億を超えるお金を横領した報道事例の新聞記事の比較を紹介している。銀行員の事例の方が重い罪ではあるが、いざ報道されると圧倒的に大学スポーツに関連した事件の取り上げ方が大きい。
この是非を問うている訳ではなく、指導者や学生に対してコンプライアンスを徹底するとともに、いざ事案が発生した場合、再発防止はもとより、迅速な報道対応のために速やかに情報を関連部署に上げさせることを徹底させている。
予算規模が2000億円を超える日大でも、取り扱い方を誤ると恐ろしい事態になる。そしてスポーツは選手が善で、それを統括する組織が悪になるケースが多い。今回も、一部の存在である当該クラブの事態が、組織全体の在り方の批判に繋がった。
大学界には刑事事件に発展する事案が定期的に発生している。トップブランドの国立大学でも研究費や論文の不正、さらにはアカハラ・セクハラなども度々報道され、記者会見をしていない不誠実なケースも多くあるが、そのほとんどは組織批判にまで至らない。
やはりスポーツは、特別な存在である。今回の事態は、まさに「スポーツは怖い」という典型的な事例ではないだろうか。危機管理広報の基本は「報道を早期に収束させ、組織への批判を避けること」だと言われている。今回の事態は、ひとつの事実が巨大な組織の批判にまで至ってしまった。
当然、日大の組織のあり方にも問題はあったが、人間と同じで完璧な組織などあり得ない。いずれの組織も何らかの問題を抱え、それを解決するために日々努力を続けているのが実情であろう。
広報担当に限らず、組織に属する者は今回の事態を単に野次馬的に傍観し、批評するだけでなく、自身の組織に置き換え、自分ならこのケースならどのように動くべきか、常にシミュレーションしておくべきである。なぜなら、こうした事態に巻き込まれた者は「まさか自分が…」と必ず思っているはずである。
神は「まさか自分が」と思っている者の後ろに立ち、ポンと肩を叩き「次はお前だ」と指名してくる、残酷さをもっている。そして誰も、それを予知することはできない。
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