解説・ビリー・アイリッシュ 日本でヒットさせたマーケティング戦略 #02
日本では「bad guy」を打ち出す。ストリーミング市場で勝つ、ビリー・アイリッシュ陣営の選択
データに基づき、長く『bad guy』を打ち出すと決定
昨今の音楽業界は、Apple MusicやLINE MUSIC、Spotifyなど各DSP(Digital Service Provider:デジタル音楽配信事業者)の「プレイリスト」に入ることを最重要事項のひとつに位置づける“プレイリスト偏重”の流れが顕著だ。
しかしビリーはその流れに乗らず、広告やSNS企画でリーチを確保し、認知拡大を図った上で、多様なタッチポイントで興味関心を深めてもらい、ストリーミングサービスで検索するユーザーを増やすという戦法をとった。ここからは、「プレイリストを押さえるという対症療法的な施策にばかり傾倒して、アーティストの魅力を伝える努力を怠ってはいけない」という、ビリーのマネジメントチームの意思も感じられる。
ファンを増やすために、何をすべきか?あらゆるプロモーション施策は、データに基づいて効果を分析し、実施の是非を判断したり、必要に応じてチューニングしながら展開していった。
分析の材料としていたデータは、広告のインプレッション数やコンバージョン数、ストリーミング再生回数、デジタルダウンロード数、フィジカル(CD売上)、インターネットでの検索数、ソーシャルメディアでの言及数など。これらを見ながら、「どんな企画がどんな数字にどれだけ影響を与えるのか」を把握し、施策の企画や改善に生かした。例えば、ビリーの代名詞として推す楽曲も、データに基づいて決定した。
佐藤 いつの時代も、洋楽のマーケティングにおいては「1曲のヒット」が非常に重要です。ビリーで言えば『bad guy』がそれにあたります。米国では、2019年7・8月あたりからメインで訴求する楽曲を『bad guy』から別の曲に変えたのですが、日本ではあえて下半期も『bad guy』を継続して打ち出していく決定を下しました。
『bad guy』を使用したWeb動画広告は、他の楽曲を使用したものと比較して、インプレッション、コンバージョン、完全視聴率といったどの数字も高いスコアを示していたんです。『bad guy』が日本における最大のヒット曲であり、広告におけるキラーコンテンツであることは明らかでした。
CD中心の時代は、邦楽/洋楽とも楽曲のリリース日を起点とした3カ月間、いかにチャートに残るかが勝負。極端に言えば、アーティストとファンのタッチポイントとそこで提供する体験は、3カ月間に注力することが多かった。
しかし、音楽コンテンツの消費スタイルがCDからストリーミングへと移行したことにより、アーティストとファンの恒常的なタッチポイントを設計・運用することが、マーケティング・コミュニケーションのポイントになったと言える。長い時間をかけてアーティストとファンの関係づくりを進めてきたビリーのスタイルは、現在、洋楽アーティストだけでなく、多くの邦楽アーティストも参考にしているという。