解説・ビリー・アイリッシュ 日本でヒットさせたマーケティング戦略 #03
ユニクロとのコラボが話題、週間再生回数250万超え「日本でのビリー・アイリッシュ成功要因は、グラミー賞受賞だけではない」
グラミー賞の主要4部門を史上最年少で制覇したシンガーソングライターであり、次世代のポップカルチャーのアイコンとしても注目を集めるBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)。世界での熱狂を追いかける形で、日本でも若年層を中心に、急速に注目が高まりつつあります。
日本の若者の“洋楽離れ”が言われる中で、またCDからダウンロード、そしてストリーミングへとビジネスモデルの大変革の最中にある音楽業界で、どのようにビリーを“成功”へと導いたのか。本記事では、2017年に始まった一連のマーケティング施策を5つのフェーズに分けて振り返り、ヒットの鍵を考察します(第3回/全3回)。
日本の若者の“洋楽離れ”が言われる中で、またCDからダウンロード、そしてストリーミングへとビジネスモデルの大変革の最中にある音楽業界で、どのようにビリーを“成功”へと導いたのか。本記事では、2017年に始まった一連のマーケティング施策を5つのフェーズに分けて振り返り、ヒットの鍵を考察します(第3回/全3回)。
フェーズ5:お茶の間への流布で、ポジション確立
2020年に入り、ビリー・アイリッシュは日本の音楽市場においてもいよいよ“成熟期”を迎えている。
各ストリーミングサービスの「2019年総括プレイリスト」に軒並みラインナップされたことで高まった注目を維持しながら、『bad guy』は、2020年1月期新日曜ドラマ『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(読売テレビ・日本テレビ系)の主題歌に起用された。ビリーの楽曲は、一部の洋楽好きや“早耳”の若者だけでなく、お茶の間にも届くことになったのだ。
間髪入れず、史上最年少でグラミー賞4冠を達成。そして初の単独来日公演が決定(現時点では、新型コロナウイルス感染症の拡大で開催未定)。立て続けに投下されるニュースによって、日本の音楽シーンにおけるビリーへの注目は上昇の一途をたどっている。
ストリーミングサービスでの週間再生回数は250万回(2019年6月の交通広告出稿直後は70~80万回)を記録し、Official髭男dismやKing Gnuなど人気邦楽アーティストが名を連ねるランキングの中に、洋楽ながら上位にランクインし続けている。認知率(2019年6月の交通広告出稿直後は約3%)もユニバーサルミュージックの自社調査で20%に到達した。
グラミー賞の翌日に、『スッキリ!』で20分間の特集が組まれたことも、“お茶の間”への浸透を加速させたと、プロモーションを担当したユニバーサルミュージック Marketing Hubの横井里沙氏は振り返る。
横井 これは担当チームが、各メディアと継続的にコミュニケーションをとり、リレーションを築いてきたことの成果に他なりません。2019年から2020年にかけて、アーティスト本人の来日がないにも関わらず、認知度が2%から20%に伸びるというのは前例のないこと。
社内外のすべての関係者と、テレビをはじめとするメディアの協力があって、日本におけるビリー・アイリッシュは現在のポジションを確立することができたと思っています。ストリーミングだけでなくフィジカルでも売上を伸ばしていることが、日本の音楽マーケットに浸透した証拠だと、手応えを感じています。
横井里沙
ユニバーサルミュージック Marketing Hub 主任 米国ボストン大学を卒業後、2015年に現ソニー・インタラクティブ・エンタテインメントに入社。プレイステーションのサブスクリプションサービス(PlayStation®Plus)でアジア統括を担当。その後、P&Gでカスタマーマーケティングの経験を経て、2019年3月にユニバーサルミュージック入社。入社後、初の担当アーティストがビリー・アイリッシュ。
ユニバーサルミュージック Marketing Hub 主任 米国ボストン大学を卒業後、2015年に現ソニー・インタラクティブ・エンタテインメントに入社。プレイステーションのサブスクリプションサービス(PlayStation®Plus)でアジア統括を担当。その後、P&Gでカスタマーマーケティングの経験を経て、2019年3月にユニバーサルミュージック入社。入社後、初の担当アーティストがビリー・アイリッシュ。
狙い通り、『bad guy』は大ヒットし、「ビリーと言えばbad guy、bad guyと言えばビリー」というイメージも確立された。しかし、今後のミッションは次なる『bad guy』をつくることだと、ユニバーサルミュージックにおける洋楽市場のマーケティング戦略を統括する佐藤宙氏は力を込める。
佐藤 今後も長く愛されるアーティストを目指していく上で、またより多くの方に知られるアーティストを目指していく上では、次のヒット曲をつくることが必須条件です。
次なるヒット曲候補として、データを交えた分析によって導き出された答えは『you should see me in a crown』。発表されたのは2018年と少し前だが、ビリーと個人的にも親交が深いデザイナー・村上隆氏が手がけたMVが話題になったこと、その村上氏とのコラボレーションにより実現したユニクロとのタイアップ企画が2020年5月に情報解禁されたことなど、話題性も考慮して選定した。
★『you should see me in a crown』村上隆が手がけたMV
横井 ユニクロのTシャツブランド「UT」から、村上隆さんとビリーがコラボしたコレクション「Billie Eilish by Takashi Murakami」が6月に発売されました。ビリーにはカルバン・クラインやルイ・ヴィトンといった世界的ハイブランドとのタイアップ経験がありましたし、当社のマーチャンダイジングチームも早い段階から日本ブランドとのコラボレーションの可能性を探り始め、ユニクロやアーティスト本人との交渉を進めてきていたんです。