日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #08

日産、木村拓哉さん起用から考えるアンバサダー論。“やっちゃえ”と“ぶっちぎれ”の狭間で

前回の記事:
広告の常識からは、前代未聞。ラベルを剥がす、サントリー 伊右衛門テレビCMの狙い
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。実際、日本で話題になった事例の中には、海外のトレンドの延長線上にあるものが、少なからず存在しています。今回は、その第8回です。
 

ブランドアンバサダーは会社の代表か、生活者の代表か


 永ちゃん(矢沢永吉さん)が登場する“やっちゃえNISSAN”というテレビCMがオンエアされ始めたのは、2015年のこと。やんちゃでロックな人生を歩んで来た永ちゃんが日産自動車という会社に向けて放つ“やっちゃえ”というフレーズは、永ちゃんの存在ともピッタリ来ていたし、日産に“エールを送る”という立ち位置にも見えて納得が行くものでした。

 また、それを言われる側の日産も、“もちろん、やるよ!”と応える姿勢が想像され、あるいは社員自身による会社や自分たちへの“やっちゃえ”という声にも聞こえて、好意的に受け止めていました。

 ところが、2017年、永ちゃんの言葉は、“ぶっちぎれ、技術の日産”に変更されます。あれ?と私は思いました。正直、違和感を覚えたのです。“やっちゃえ”と“ぶっちぎれ”は、全然違います。

 “やっちゃえ”はメーカーによる自画自賛の言葉ではありませんが、“ぶっちぎれ”は自画自賛の言葉です。“やっちゃえ”は、一般人にとっても自らの日々への応援歌にも聞こえますが、“ぶっちぎれ”にはそういった要素はなく、あまりにもメーカー寄りのフレーズです。

 “ぶっちぎれ、技術の日産”と言ってしまうと、ついつい「本当に、ぶっちぎってるんだろうな?」と迫りたくなります。もちろん日産の技術力は素晴らしいのでしょうけれど、他の自動車メーカーを“ぶっちぎっている”とは思いづらいところがあります。

 当時、永ちゃんは日産の“ブランドアンバサダー”。ブランドアンバサダーは一般に「ブランドの親善大使」と言われます。その立ち位置は、けっして“会社の人”であってはならないと思います。ブランドを勧める人ではあっても、あくまでもユーザー目線を持ち、生活者の代表としてふるまってもらうべきでしょう。

 だから今回、アンバサダーの永ちゃんからキムタク(木村拓哉さん)への変更を機に、フレーズを“やっちゃえ”に戻したことは、英断だと感じました。

 それこそが、アンバサダーの発すべき言葉です。語られている内容も、“いま逆境にある”という意味合いが含まれていて、ブランド自らの状況を覆い隠すことなく扱う姿勢には好感が持てます。
 
公式Webサイトより

 ただ、キムタクが以前長くライバル会社のテレビCMに出演していたことで、日産のブランドアンバサダーとして相応しくないのでは?という声があるのも事実でしょう。

 しかし私が気になったのはその点ではなく、語られている内容とキムタクの存在(一般の人のイメージ)が、永ちゃんの最初のテレビCMの時ほどは“ピッタリ”していないように感じる点です。
 
【企業】 TVCM 「やっちゃえNISSAN 幕開け」篇 60秒

 “何度もつまずいた”とか“逆境”というフレーズが、キムタクにはあまり似合わない気がするのです。

 でも、まだ分かりません。その辺りは、今後の展開を楽しみに見守りたいと思います。

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