日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #09

優香と青木崇高 夫妻が出演、トヨタ新CMに見るイマドキ家族のリアリティ

 

息子に対する母親の情を、見事に描き切った海外CM


 こんなふうに母親と息子の微妙な感情を描いた広告は、海外にもあるのだろうか?

 “微妙”というよりは、思春期の息子を想う母親の切なく(そして、少し滑稽な)感情を見事にかつハチャメチャに描き切った事例が思い浮かんだ。カンヌライオンズ2014フィルム部門でゴールドを受賞した「Old Spice ”Momsong”“Dadsong”」である。

 Old Spiceは老舗の男性用化粧品だが、一時期すっかり“オジサンの男性用化粧品”のイメージが付いてしまっていた。ところが、2010年頃から若者に向けた広告コミュニケーションを続けざまに展開し、復活を果たしたブランドだ。今では、思春期の男の子が女性にモテるために使用する男性用化粧品という位置づけになっている。

 Old Spiceのボディスプレーを身体にかけてデートに出かける息子。可愛い息子が“大人の男”になっていくことに戸惑い、嘆く母。その切ない気持ちは、息子がデートしているクルマに引きずられながら付いていき、レストランに掃除人に扮して現れ、ビーチの砂の中から出現し、いちゃつくソファの中からズルズルと飛び出てゾンビ化までしてしまう。
 

 続く“Dadsong”で、父親は「息子はもう(大人の)男だ」と主張するが、母親は受け入れない。「息子はまだまだ子供で、彼にはオモチャが必要なのよ」と主張する。テレビCMの中で、ひとりの父親は「彼を(好きな場所に)行かせてやれよ!」と主張するが、これもまったく聞き入れられない。

 母親の“ゾンビ度”は激しさを増し、映画館の背もたれに身を隠し、アイススケート・デートの氷の下にまで現れ、水槽の中に幼い頃の息子の玩具を持って沈み、ついには旦那の肩にかけた手がオカルトものよろしくグングンと伸びて、幼い頃の息子の姿に向かっていく。
 

 いつまでも息子を子どもとして見たいという母親たちの心情をユーモラスに描きながら、そうすることでOld Spiceのボディスプレーが、大人になりかけの思春期にいる青年のための男性化粧品であることを強力に印象づける、かなり大好きなテレビCMである。
 

時代に合う、親子関係を探ることが重要


 “親子関係”や“親子の情”は、世界共通で重要なものだが、同時にその現れ方は、時代によって変わっていく。

 古臭い親子関係では、生活者の心を打つことは難しい。多くの人がなんらか共感するような、リアリティのある描き方がますます必要とされていくだろう。
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