音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #21
戦略を決めたら、徹底的に執着すべき理由【音部で壁打ち】
- 前回の記事:
- 顧客起点は、社会正義ではない。【音部で壁打ち】
「顧客起点のマーケティングを展開するための方法」について音部さんがアドバイスします。顧客起点の重要性について語った前編に続き、後編では実現に向けた具体的な方法と注意点を紹介します。
顧客起点を仕組み化する方法
【質問】
先日、全社的なマーケティング戦略がミドルマネジメント層を中心に作成され、社内に公表されました。顧客データに基づき、「顧客起点のマーケティング」を展開するという趣旨にはマーケティング部員の全員が賛同しています。
しかし、いざ実行というフェーズになると、どのように顧客起点を徹底するのかという認識にバラツキがあり、どこから手をつければ、いいのかわかりません。音部さんにアドバイスを、いただけないでしょうか。
しかし、いざ実行というフェーズになると、どのように顧客起点を徹底するのかという認識にバラツキがあり、どこから手をつければ、いいのかわかりません。音部さんにアドバイスを、いただけないでしょうか。
(前編はこちら)“消費者中心主義”が持続的成長の基礎だと理解したら、次にするべきことは「仕組み化」です。もっとも端的で効果的な手立てのひとつは、パーセプションフロー・モデルをつくることです。
パーセプションフロー・モデルは、商品開発や店頭、価格、など4P要素を含む全マーケティング活動の設計図です。
消費者のパーセプション(認識)と、彼らが受容する知覚(メッセージやブランド体験をどのように捉えるか)を中心に描かれます。意思決定やマーケティング活動の立案・実行の中心にパーセプションフロー・モデルを置いてしまえば、常に消費者を中心に考えざるをえません。つまり、組織の中で仕組み化できます。
そして、パーセプションフロー・モデルに書かれていないことはやらない、という覚悟が必要です。文章に書くと厳しく聞こえますが、これはパーセプションフロー・モデルに限ったことではなく、ひとたび戦略に合意したら、徹底的に戦略に執着すべきです。さもないと、戦略がただの言葉遊びや飾りになってしまいます。
状況が変わるごとに方針を変更することを、臨機応変に立ち回っていると勘違いすることがあります。その場合、その場その場の雰囲気に右往左往しているに過ぎないかもしれません。忙しく資源の浪費をしているだけで、目的の達成に近づいているわけではないことも多いものです。
戦略を変えるのは環境や状況が変化したときではなく、それらの影響で自身の「目的」か「資源」に大きく変化したときだけで大丈夫です。それ以外の状況では、合意した戦略を徹底しましょう。同時に、そうした執着に足る、根拠のはっきりした戦略を掲げたいと思います。
このような話をすると、「過去に決めた戦略に執着することで、未来の可能性を狭めていないか?」という質問を受けることがあります。一見、理知的な質問のように聞こえますが、野放図に可能性を広げても混沌と資源の浪費を招く結果になりがちです。可能性の名のもとに思いつきの余地を放置しておくことと、目的達成の可能性を高めることは本質的に異なります。
目的を達成できるか否か、勝てるか否かは、つまるところ目的に対する投入可能な資源の総量に依存します。選択肢を絞ることで、資源が無駄に使われる可能性を大きく減らせます。とはいえ、選択肢を減らす決断には本能的な不安がつきものです。
この本能的な不安に対しては、合理的な理性の力と知識が役に立ちます。選択肢を残せば残すほど、本能的な安心感とは裏腹に、ひとつの選択肢に投入可能な資源が減ります。選択肢を4本残す場合、選択肢あたりに使える資源量は、選択肢を2本に絞った場合の半分しかありません。資源が減るということは、すなわち成功の確率を下げるのと同義です。もしもその選択肢が正解の選択肢であったとしても、資源量が足りなくて閾値を超えられなくては本末転倒です。
「可能性を狭めていないか?」という質問は、「理性の判断が本能の不安に負けそうだ」というサインです。不安がる本能を安心させるために、調査やデータで方針を補強しつつ、対応していきましょう。
もちろん、相応の資源量を確保しているのであれば、それなりに選択肢を維持できます。これは、資源の総量が多いことの利点でもあるでしょう。