よなよな流「ファンベース・ブランディング」―ファンの熱狂をブランドの力に変える方法 #04
ファン度を高める、よなよなエール流「密着プレー」とは【ヤッホーブルーイング 稲垣聡】
ファン度を高める5つのトリガー
「密着プレー」を、お客さまとのさまざまなタッチポイントで行ってきた結果、私たちが知ったのは、ファン度が高まる機会の多様性です。
ある人は、イベントでスタッフと話したことがきっかけになっていたり、またある人はEコマースでの丁寧な問い合わせ対応がきっかけになっていたりと、さまざまなパターンがあったのです。分類してみると、ファン度が高まるトリガーというべき機会は5つほどあることがわかりました。
第1に、非日常的な体験です。「超宴」など、特別な場所でのブランド体験や、仲間との熱狂体験がきっかけになるのです。
第2に、ビールによって人生が変わるような体験です。例えば、飲めなかったビールが飲めるようになったり、ビールで仲間ができたりといったエピソードがそれにあたります。
第3に、会社の理念・文化や、スタッフの人柄を知って共感する経験です。
第4に、顧客対応における驚くべき体験が挙げられます。
そして第5には、継続的なエンゲージメント(オールウェイズ・オン)です。
これら5つのトリガーは、どれかひとつに集中すれば良いわけではなく、複数組み合わせていく必要があると考えています。私たちが大いに参考にしている「ハーレーダビッドソン」も、顧客とブランドとの関係性を5段階の発展モデルに整理し、段階ごとにさまざまな機会・行動を定義しています。
「感動」「共感」「繋がり続ける」ことの重要性
一方でアカデミックな視点からも、ブランドと顧客の情緒的な関係性がどのように形成されるのかについて、活発に議論がなされています。例えば南カリフォルニア大学のC.W.パク教授らは、ブランドによって顧客自身の「歓喜」「達成」「成長」がなされる必要があるとしています。また青山学院大学の久保田進彦教授は「エキサイティングな経験」「顕現性(心の中で目立つということ)」「自己との類似性」「内面性の共有」「共にあった経験」が、(それぞれ強弱あるものの)ブランドと顧客の関係性の形成を促すことを示唆しています。
また実務的な視点からは、トライバルメディアハウスの高橋遼氏が、「熱狂の壁」を超えるための体験として「愛着」「親密」「感動」「学び」の4つの要素を挙げています。
これらを総合的に俯瞰し、シンプルにまとめると、熱狂を形成しアドボケイツを育てるためには、
①「エキサイティングな経験」や「驚きの体験」で顧客を感動させること
②学びコンテンツやコミュニケーションを通じ、企業や社員が積極的に自分たちの考え方や思いを伝え、顧客と共有すること
という2つの戦略がまず重要になります。
さらに、それらが単発にならないよう、
③オールウェイズ・オンでつながり続けて、顧客の心の中の存在感や親密性・愛着を育んでいくこと
が基盤になります。
以上3つの戦略を同時に回していくことこそ、熱狂的ファン育成の定石といえるのではないでしょうか。
参考文献
- Fournier, Susan (1998) "Consumers and Their Brands: Developing Relationship Theory in Consumer Research" JOURNAL OF CONSUMER RESEARCH, Vol. 24 March 1998
- Fournier, Susan (2009) "Lessons Learned about Consumer's Relationships with Their Brands" D.J. MacInnis, C.W. Park, and J.R. Priester Handbook of Brand Relationships, Society of Consumer Psychology
- 石塚しのぶ(2010)「ザッポスの奇跡(改訂版)~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~」,廣済堂出版
- 菅野佐織(2011)「ブランド・リレーションシップの構築」青木幸弘編著『価値共創時代のブランド戦略-脱コモデティ化への挑戦-』,ミネルヴァ書房
- 久保田進彦(2017)「ブランド・リレーションシップのプロパティー・パートナー・モデル」『流通研究』20巻(2017)2号, 日本商業学会
- Park, C.Whan. D.J. MacInnis, and J.R. Priester (2009) "Research Directions on Strong Brand Relationships." D.J. MacInnis, C.W. Park, and J.R. Priester Handbook of Brand Relationships, Society of Consumer Psychology
- 高橋遼(2018)「熱狂顧客戦略「いいね」の先にある熱が伝わるマーケティング・コミュニケーション」, 翔泳社
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