日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #10

セイコーのポエムが広告賞を受賞!? ブランドはアーティストとして振る舞えるのか

 

広告なのかエンタメなのか?アップルの動画広告


 “ブランドのある種のアーティスト化”の海外での例として、筆者の頭にすぐに浮かんだのは、カンヌライオンズ2018でエンターテインメントフォーミュージック部門グランプリ他を受賞した、アップルHomePodの「Welcome Home」だ。

 映画監督のスパイク・ジョーンズを起用し4分弱のショートムービー仕立てにすることで、エンターテインメント色・アート色を色濃く持たせた動画広告になっている。
 
アップルHomePod「Welcome Home」

 この場合は、アップルというブランド(Home Podという商品)が、他分野の著名な才能(この場合は、スパイク・ジョーンズ)と協業することで、一種アーティスト化し、商品やブランドの価値を上げようとした例だと考えられる。

 内容は、こうだ。仕事から都会の小さな部屋に帰って来た、主人公の女性。孤独で疲れているように見える。Home Podに話しかける。「ねぇ、Siri。何かいい音楽をかけてくれない」。

 するとSiriがそれに応えて曲をかけてくれる。しだいに気分が高揚する主人公の女性。その心情を表すかのように、夢の世界で部屋が拡がり壁も取り払われて行く様が描かれ、彼女は踊り出して行く。

 数分にわたって心情描写と思われる映像が続き、最後は元の部屋に戻ってソファの上でくつろぐ主人公が描かれる。

 もちろん、この映像は、Home Podの「広告」としても、きちんと成り立っている。スマートスピーカーの中でも、アマゾンエコーやグーグルホームなどに比べて「音楽に強い」と言われるアップルHome Podの特徴が、極上のエンターテインメント表現で余すことなく描かれている。

 しかし、それでも従来の「ブランド側の意図の解説」としての動画広告であれば、1分30秒過ぎ~3分30秒過ぎあたりまで2分間続く、女性の心情を表した夢の世界の描写は“不要”だろう。

 しかし実際は、“不要”どころか、この2分間が動画広告の肝であり、最も評価が高い部分でもある。これは何も「著名な監督を起用したから」そうなったのではない、と思う。そうしたある種の“アーティスト化”が必要な時代なのだ。
 

ブランドがアーティストとして振る舞う時代


 広告やブランドと、エンタテイメント / カルチャー / アートは、かつてないほどに近づいている。

 以前は、ブランドがカルチャーの“力を借りて”いたのだが、今はブランド自体が一種のアーティストとして振る舞うことが必要になってきている。難しくも面白い時代だと思う。
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