日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #11
日本「シズル」型 vs欧米「コンセプト」型。キリンのレモンサワーが描く海辺のイイ時間CM
コンセプトやメッセージを中心に据える欧米テレビCM
日本の広告制作者の一般的な感覚では、レモンサワーやビールなどのアルコール飲料のテレビCMであれば、商品のシズルカットや飲んだ時のシズル感を中心に描くのが、普通だと思うのではないだろうか?
ところが欧米ではビールの広告でさえ、コンセプト型が多いように思われる。広告施策の大部分の時間を使って、商品メッセージを伝えようとするものだ。「カンヌライオンズ2012」でプロモ&アクティベーション部門とメディア部門でゴールドを受賞した、カールスバーグ・ビールのベルギーでのキャンペーン“Bikers”はその典型例だ。
ある映画館を借り切って、そこに148名のBiker(日本で言えば暴走族)を座らせる。残った席は中央付近の2席のみ。多くのカップルは、恐れをなして逃げ帰る。しかし、中には果敢にも着席しようとするカップルもいる。恐ろしい形相で2人を睨み付ける148名のBikerたち。ドキドキしながらも2人が席に着くと、両脇の人がカールスバーグを手渡し、皆で盛大に拍手し、2人の勇気を祝福してカールスバーグで乾杯する、という内容だ。
多くの逃げ帰るカップルと、勇気を振り絞って着席して祝福される何組かのカップルの様子を撮影し、後に編集してWeb上にアップした。その動画は1600万回以上も見られる人気コンテンツとなり、選択意向のシェア(Share of Choice)はなんと1%から35%に急増したという。
「That calls for a Carlsberg」 というベルギーでの新しいキャッチフレーズ(コンセプトでありメッセージである)に基づいて開発された。そのキャッチフレーズは、カールスバーグを“勇気を示した人々へのご褒美”として位置付けたものだという。
このWeb動画で、いわゆるビールを飲むシーンはほんのわずかで、シズルカットでさえ最後の最後に1、2秒あらわれるだけだ。メインで描こうとするメッセージは、「カールスバーグは、勇気を示した人へのご褒美である」。欧米の広告が、いかに「コンセプト中心」につくられているかがよく分かる。
日本に多い「シズル感」型の広告には、ときに凡庸で他社と同じような表現に終わる危険性がある。しかし今回、取り上げたキリンビールの事例などは、そのシズル感でみごとに飲みたくさせる。
シズル感型もコンセプト型も、良いところと難しいところがあると思うが、欧米と日本のこの違いは興味深い。今後も注目していこうと考えている。
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