トップマーケターが語る2021年の展望 #01

足立光、伊東正明、奥谷孝司、音部大輔―トップマーケターが語る2021年の展望①

 新型コロナウイルスの感染拡大が私たちの生活に大きな影響を与えています。2021年はそうした変化にどう対応していくべきでしょうか。トップマーケターが「2021年の展望」を語ります。
 

リアルとデジタルを「俯瞰」したマーケティングが重要に


足立光
ファミリーマート チーフ・マーケティング・オフィサー

 2021年にさらに加速しそうな点は、次の3点だと考えています。

 (昨年に引き続き)企業ではなく個人:コロナの影響によって多くの企業で副業が解禁されたこともあり、名刺管理アプリなどでも「副業」を登録する人が増えてきました。「想定外」が毎年のように起こる現代では、自分のことは自分で守らなくてはなりません。会社に頼ることなく、また現状に満足することなく、自分自身で自分のキャリアを描き・築き・発信し、時には「複業」で、同時進行して複数の経験を積みながら常にアップデートし続けるという「自分自身をマーケティングしながら、自己革新する力」が、さらに問われていくでしょう。

 デジタル・マーケティングの終焉:すでに多くのリアルな事象がデジタルなしでは語れないようになっている現在、「デジタル」だけを分けて特別視したり別の部署を作ったりするのはナンセンス。これからはリアルとデジタルを「俯瞰」した経営やマーケティングがより重要になっていくことは間違いありません。デジタルは今後も伸びるでしょうが、「リアルしかわからないマーケター」がもはや重要視されなくなったのと同様に、「デジタル・マーケティング部」やデジタルしかわからないような「デジタル・マーケター」の重要性も、リアルのある多くの業界では落ちていくでしょう。

 企業・業界を超えたアライアンスによる話題作り:これまで各業界や企業が、顧客の「財布の占有率」や「時間の占有率」を奪い合ってきたのと同様に、今は各企業が「話題の占有率」を奪い合う時代になっています。より大きな話題で顧客の中での「話題の占有率」をあげるには、単一企業で行うよりは、複数の企業や、業界を超えた企業で協力する方が大きな話題になるのは自明です。複数の異なる意思や企業文化をひとつの施策にまとめるという困難を乗り越えて、このような挑戦が増えてくると思います。
 

変わらない80-90%に目を向けよう


伊東 正明
吉野家 常務取締役

 前職でグローバルチームにいたことがあります。その前までは、「日本はグローバルと違う」「グローバルチームは何にもわかってない」と言っていましたが、実際自分でやってみると世界中の顧客の同一カテゴリーに対するニーズは、80-90%は同じだと確信しました。

 もちろん、それが当てはまらない業界もあるかもしれませんが、「洗濯物の汚れは、落ちてほしい」し、「紙おむつは漏れたら嫌だし、吸収力は大事だし、肌荒れして欲しくない」のはどこでも同じわけです。グローバルチームはいかにその「共通の80-90%を、グローバルスケールを活かし10-20%のローカルニーズに合う施策をつくること・必要な変更を判断すること」が仕事だと学びました。 

 2020年はパンデミックにより世界中が変化を求められた1年となってしまいました。withやafterなど世の中の変化に対する議論がたくさん起きています。確かに変わることもあるでしょうが、ひょっとしたら80-90%は変わらないことの方が多いのではと私は思っています。

 私の従事する飲食業は本当に変化しています。人が外を出歩かない、宴会をしないなど。デリバリー対応、テイクアウト対応、それ以外のビジネス機会の創出は、当然速やかに行わなくてはいけません。でも、人は1日3回365日飯を食べるわけですし、食べたいものも変化していません。提供の仕方は変わっても提供しているものは変わっていないわけです。変わることばかりに振り回されるのでなく、変わらない80-90%への理解が本当はもっと大切なのではないでしょうか?本質的な顧客理解をさらに深化させる1年にしていきたいと思います。
 

デジタルを活用してお客さまとの真のつながりを生み出す


奥谷孝司
オイシックス・ラ・大地 執行役員 COCO・顧客時間
共同CEO 取締役

 2021年は、2020年にどれだけお客さまとのつながりを構築できたかが、問われることでしょう。2020年が良かった企業も悪かった企業もあると思いますが、勝負は今年です。お客さまとのつながりを問われる年になるでしょう。2020年にお客さまとのつながりを強めた企業が勝ちます。それはデジタルを活用した、お客さまとの真のつながりを意味します。それができないと、企業は本当に生き残れないと思います。皆さん、お客さまとのつながりをつくる2021年にしていきましょう。
 

「D2C」「BtoBマーケ」「マーケティングとファイナンスの融合」に注目


音部大輔
クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役

 2021年は、3つの要素に注目しています。1つ目はD2Cの隆盛です。DNVBなども耳に新しいですが、D2Cの実験を開始する既存ブランドも増えそうです。純度と精度の高いブランド体験を提供する購入の仕組みができるかもしれません。

 2つ目は、BtoBマーケティングです。少し前のBtoCで「マーケティング=広告や調査」と認識されていたように、BtoBでは「マーケティング=リード獲得」と認識されています。これからはBtoBでも「いい商品・サービス」を定義し直し、市場創造をするマーケティングがはじまるでしょう。

 3つ目は、マーケティングとファイナンスの融合です。といっても「支払い」の話ではありません。投資などを通して、強固なブランド構築に重要な「参加(=“第5のP”としてParticipation)」をうながす仕組みができてくるでしょう。

 
続きの記事:
片山義丈、小和田みどり、鈴木健、鈴木康弘―トップマーケターが語る2021年の展望②

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