音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #23
日本のマーケターならではの「強み」と「弱み」は? 【音部で壁打ち】
国や民族に固有で「普遍な強み」はない
【質問】
現在、海外で働いていて、日本とのギャップを感じています。例えば、日本ではマーケティング用語も日本語に変えてしまい、このボーダレスの時代に言い換える必要があるのか、疑問に感じています。日本は独自性がある分、強みもたくさんあると思いますが、海外のマーケターと比べたとき、日本のマーケターの強みや弱みはありますか?
マーケティング、ブランド、インサイト、イノベーションなど、英語の概念を直接カタカナで導入することが、概念の理解を表層にとどめてしまう元凶に見えることもあるので、一概に翻訳が悪いともいえないと思います。日本語であれ、英語であれ、事物の本質をうまくとらえることができると素敵です。
個人的には、日本のマーケターの強みは「日本の常識を知っていること」や「日本へのアクセスが早いこと」以外には、「日本のマーケター」に固有の強みがあるわけではないように思います。それは米国や欧州のマーケターでも同じことです。仕事をしていて、民族的・国民的に固有の普遍的な強さや弱さをあまり感じたことはありません。民族間や国民間の差よりも、個々人の違いのほうが随分と大きいように思います。
同時に、会社や業界など、仕事をし、経験を積む環境による違いも大きいことでしょう。洗練された仕組みがあるから個々人を成長させられたり、組織のリテラシーが高いからそれぞれの力をうまく引き出せたりすることはあります。また同じ会社でも、部門やレポートする上司などによっても違いは見いだせるものです。個々人の強みや弱みについて、民族や国家以上の影響をもたらすかもしれません。組織の特徴や国家・民族間の違いは、環境要因として個人の能力に影響を与えますが、強みや弱みを構成するもっとも大きな要因は、やはり個人にもとづいているように思います。日本語か英語かという以上に、表層にとどまることなく本質をうまく理解できるのが重要であることに、ちょっと似ているかもしれません。
個人間の差が大きいとはいえ、日本で働くことと、海外のそれぞれの国で働くことには相応の違いがあり、得られる経験値の量や質は異なります。日本であれ海外であれ、いまの環境下で得るべき経験を最大限に得られることを意識するといいでしょう。営業にいるのであれば、営業ゆえに得やすい経験値を優先的に得ておきましょう。大きなブランドにいるなら、大きなブランドならではの経験値を、小さなブランドにいるなら、小ささゆえの経験値をかせぎましょう。もちろん、海外勤務も同様です。フィリピン勤務でないと得られない知見はフィリピンにいる間に、ベトナム勤務ならではの経験値はベトナムのプロジェクトで得るのが意義深いと思います。もし高齢化や都市化などの問題が、諸外国より切実な課題としてとらえられているならば、日本市場で活動するマーケターに固有の経験値をもたらすかもしれません。
ちなみに、言語の問題を考えたとき、どこで働くにせよ英語はできた方が便利です。昨年の春頃に、新型コロナウイルスについての情報を、和訳を待たずにすんだことは、少し視点を広げるのに役立ちました。時差がないことの意義は、ニュースなどの最新情報にとどまりません。イスラエルの歴史学者・哲学者であるユヴァル・ノア・ハラリや、米国の地理学者・人類学者であるジャレド・ダイアモンドといった知識人の見解やインタビューをリアルタイムで読むことことなども当てはまります。
多くの人が注目し必要とする情報は、出版社などメディアが翻訳してくれます。だから「英語が生活に不可欠か?」と言われれば、それほどでもないかもしれません。ただ、個人的な興味については、自分で読めた方が便利なこともあります。いまのところ、少し時間差もあります。いずれ、グーグルがすべてをリアルタイムに訳してくれる日が来るかもしれませんが、日本語の特質を理解するためにも、英語を練習しておく意味はあると思います。
「日本にいても継続的にマーケターとして成長できるのか」という疑問が質問の背後にあるのだとすると、「もちろんできる」というのが正解だと考えます。原義に立ち返れば、「(属性の順位を転換し、いい商品の定義を変えることで)市場創造するのがマーケター」です。そうしたマーケティング活動において、消費者の国民性や民族性はつよく反映されるとしても、マーケター自身の国民性や民族性を問うものではないと思います。
これからも、日本から多くのイノベーションが生まれてくるでしょう。上述したように、世界にさきがけて社会問題化しつつある高齢化などは、近未来の人類の課題をほかの地域よりも先に経験できると捉えられます。先行できる分だけ、日本のマーケターは有利かもしれません。それらを「日本のマーケターに有利な強み」と呼ぶのであれば、大いに強みにしていきたいものです。
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