音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #24

CMOを目指すマーケターに、必要な「経験」とは何でしょうか?【音部で壁打ち】

前回の記事:
日本のマーケターならではの「強み」と「弱み」は? 【音部で壁打ち】
 

CMOタイプ別に必要な要素は異なる


【質問】

将来、CMOになるためには、 どんな経験を積むことが大事だと考えますか?

 連載の第10回で、マーケティング部門の責任者であるCMOには、「ナポレオン型」と「モルトケ型」の2つのタイプがあることを紹介しました。

 自らが大きなブランド・マネジャーとして立案し実行する「ナポレオン型」のCMOと、ブランドマネジメント組織を構築してそれぞれのブランドを自分が直接運営する以上に成長させる「モルトケ型」のCMOです。それぞれ、必要とされる知見や能力が大きく異なります。ナポレオン型であれば通常、競合と競い合う市場はひとつです。モルトケ型では、ブランドの数だけ競合先も増え、複数の市場を見続ける必要がでてきます。

 この違いは、戦略を構成する2大要素、“目的”と“資源”の後者、特に資源の違いに起因します。1社1ブランドのCMOは、自身の「経験」「知識」「能力」を第一の資源として使うための組織づくりをするべきでしょう。CMOのアイデアを正確迅速に実行できることが重要です。一方で、1社複数ブランドのCMOは、「複数ブランドの経験と知識」「ブランドマネジャーたちの能力」を第一の資源として組織づくりをするべきです。Aブランドの知識がBブランドと共有されることで組織の成長を高めるなど、ブランド間の連携を強める構造や仕組みが成否を分けます。

 具体的に言うと、ナポレオン型CMOには、規模が大きなマーケティング予算の使い方、CEOや営業との連携、上意下達をうまく実行できる組織づくりが不可欠です。基本的にはひとりのマーケターとして得意な領域を強化し、著しく苦手な部分を克服し、それでも残る比較的弱点の部分を使わなくて済む戦い方ができるよう能力を高めましょう。

 ここでは事例を豊富に知っていることや、実験手段を多く持っていること、いろいろな業界の広告会社の担当者を知っていることなども、きっと役に立ちます。一つひとつのマーケティング活動の規模が大きく、全体に与える影響も大きいため、どの広告会社の誰を知っているかが、ときに決定的な差になることもあるでしょう。流行っているものをいろいろ試して、自身の経験領域を広げておくことも役に立ちそうです。

 モルトケ型CMOでもCEOや営業、製品開発などといった他のマネジメントとの協働、社外との連携など、共通する部分は多いものです。大きな違いは、自分で直接的に立案したり、実行したりしないかわりに、組織内で知識がうまく伝播する構造や仕組みをつくることが不可欠な点です。自分が期待することを、自分で直接するよりも部下たちにうまくやってもらえるようにする必要があります。

 目指すべきところとしては、抜きん出たエースがたくさんいなくても勝てる組織です。Aブランドの失敗からBブランドが学び、Bブランドの成功からCブランドが学び、組織全体で経験値を稼ぎやすく、強くなりやすい構造をつくりましょう。また、自身が受けたトレーニングを改良しつつ、部下に提供できるようなマネジャーを育成できると、自律的に人材を再生産できるので心強いです。その背景には、「成長は昨日できなかったことが明日できることであり、そのためには昨日知らなかったやり方が今日わかるから明日できる」という考え方があります。これはナレッジマネジメントと呼んでもいいかもしれません。根底には、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生や竹内弘高先生らが提示したSECI(セキ)モデルの考え方があります。

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