よなよな流「ファンベース・ブランディング」―ファンの熱狂をブランドの力に変える方法 #05

起源に立ち返るべきか、忘却すべきか。よなよなエール流 ブランド論【ヤッホーブルーイング 稲垣聡】

ファンの声から見出した「よなよなエール5つのベネフィット」

 自社のブランドについて、ファンに話を聞くことは、ブランド戦略の方向性を指し示してくれるだけでなく、企業が想定していなかった、新たなブランド価値の発見にもつながることがあります。実は、ヤッホーブルーイングのファンベース戦略も、このプロセスから生まれたものでした。

 私たちヤッホーブルーングは、インターネット通販をきっかけに成長を継続できるようになった2009年頃、ファンへのインタビュー調査を行い、「よなよなエール」ブランドとは何か?を理解することにしました。その時に発見されたのが、「よなよなエール5つのベネフィット」というもので、現在も、よなよなエールブランドが顧客にもたらす基本価値として、あらゆるマーケティング施策の指針となっています。
 

「よなよなエール5つのベネフィット」

  1. 理想像の実現:飲用によって、理想とする「いつもと違う自分」になれる
  2. 癒される:飲用によって、精神的に癒される
  3. 自己確信:自分は良いモノを知っているという肯定感をもたらす
  4. 世界観への共感:よなよなエール、ヤッホーブルーイングが伝える世界の一員となる
  5. 仲間をつくる:ファン同士で友達になる

 このうち、④の「世界観への共感」と⑤「仲間をつくる」は、いわば新たな発見というべきものでした。そして、昔から、「世界観への共感」と「仲間をつくる」を上手にマーケティングに活用していたのが「ハーレーダビッドソン」です。ヤッホーは、同社の戦略をお手本に、ファンベース施策に取り組み始めたのです。
 
©123RF

ファンから得られるのはヒント。戦略立案はマーケティングの仕事 

 さて、このようなインタビュー調査を行う場合に議論になるのは、アドボケイツ(口コミするファン)レベルの顧客に話を聞くのか、それとも、「そこそこ好き」くらいの人に聞くのがいいのか、あるいは、ブランドの非使用者にも調査対象を広げるのが良いのかという問題です。

 結論から言えば、ケースバイケースですが、まずはファンに話を聞くことが基本になると思います。なぜなら、彼らのほうが、ブランドの多くの種類のベネフィットを感じているからです。

 ベネフィットは、ブランドのファクト(製品やサービスの事実、つまり性能・機能・原材料といったもの)から梯子状に伸びているモデルを想定しますが、ファンのほうが、たくさんの梯子を持っていて、豊かなブランドの世界観を語ってくれることが多いからです。



 ただし、調査によってわかるのは、ファンの心の中にある現在のブランドの姿です。発売当初に考えたブランドの設計とギャップをどう考えるか、あるいはファンに聞くことで発見されたベネフィットを、どのようにブランド戦略に活かしていくかを考えるのは、マーケティングと経営の仕事です。

 簡単ではありませんが、うまく活用すれば、マーケティング戦略上のブレークスルーを生み出すことができる。そんなお宝が、ファンの心の中には隠されていると言えます。
 

参考文献
田中洋「ブランド戦略論」  有斐閣 2017年
丸岡吉人「ラダリング法のブランド戦略への応用」『消費者行動研究』第4巻第1号 日本消費者行動研究学会 1996年
 

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