日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #14
アクエリアスの「感動CM」から考える、商品はどのくらい露出させるか問題
観た人の多くが涙するP&Gの“超感動CM”
少し前の事例になるが、海外の感動CMとして、P&Gがロンドンオリンピックに協賛した時の120秒CMがある。コンセプトとしては、アクエリアスのCMとほぼ同様だ。何組かのスポーツに打ち込む子どもと母親が登場する。母親は朝早くに起こし、送り迎えをし、食事の世話をし、洗濯をして子供を支える。子供は成長してオリンピックに出場するまでになり、ついに勝利する。
真っ先に向かうのは、母親のところだ。会場にいる母親に駆け寄って抱き付き、遠い故郷からテレビ観戦している母親に向けて画面越しに投げキッスをして、感謝の意を表す。
そして、108秒~114秒めにかけてやっと、「世界でいちばんハードな仕事(母親の仕事)は、世界でいちばん素晴らしい仕事だ。」「ありがとう、お母さん」のメッセージが現れる。
そして、最後の最後、120秒のうちの115秒目にようやく、クライアントであるP&Gの商品名が列挙される。わずか5~6秒だ。もちろん、途中に出て来る皿を洗うシーンも洗濯をするシーンも、P&Gの商品を連想させるシーンではあるが、けして商品自体は登場させない。
それが、このCMに対してのこのクライアントの決断だったのだろう。ブランディング目的に特化して、プロモーション目的については、少なくてもこのCMにおいては“過度になること”を厳しく封印した。
CMの途中に、もし“これみよがし”に、P&Gの商品が出て来ていたら、どうだっただろう?この素晴らしいCMの感動具合も、何割かは減じてしまっていたのではないだろうか。
もちろん、あらゆる仕事は、その仕事なりの意図や事情を抱えている。部外者の指摘は時に的外れなこともあるだろう。的外れであったならば、今回取り上げたCMの関係者の方には、あらかじめお詫びしておきたい。
しかし、読んでいただいた方に、“広告コミュニケーション研究者”としての一意見として、少しでもご参考にしていただけるのであれば、と考えて執筆した。
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