音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #26
本当に機能する「共通言語」とは何か? 組織で構築する際のポイント【音部で壁打ち】
そもそも、なぜ共通言語が重要なのか
【質問】
組織内で共通言語を構築することの重要性は理解していますが、実際の現場で浸透させることが難しいです。良い「共通言語化」とは何でしょうか? そして共通言語を組織で構築する際のポイントをお聞きしたいです。
プロフェッショナルやマーケティング組織の成長は「昨日できなかったことが明日できること」だと考えます。「人はたいてい昨日に対するときほど今日と明日に対して賢くなることができないものだ」という古今東西の鉄則を踏まえるなら、成長は「昨日にたいする賢さを、明日に使うこと」とも言い換えられます。
昨日の試みや失敗から普遍的な知識として「うまくいくやり方」を抽出できれば、明日はうまくできる可能性が高まるでしょう。「経験値を稼ぐことが成長につながる」という印象がありますが、それはこうした作用によるものです。そして、このように経験から得られた貴重な知識は、共通言語で伝播します。
つまり、「共通言語は経験を知識に変え、蓄積し、流通して共有することで人材や組織が成長するのに不可欠である」と理解できます。では、どのようなものが共通言語となるでしょう。
文明の場合
個人的に敬愛する作家、開高健はその博識と慧眼をもっておびただしい量のエッセイや談話を残していますが、たくさんの傑作の中のひとつに1979年に発表された『文明の旅、自然の旅』という一篇があります。そこに次のような一節があります。
「僅か五、六百年前には、いったんは、アステカ、マヤ、インカの文明と文化を築いていた彼らが、スペインの掠奪者(コンキスタドール)に『あっ』という間に滅ぼされた。ユダヤ人が滅びなかった理由は、文字を持ったこと、強力な宗教を持ったことですね。インカの場合は、絵文字まではいったけれども、表音文字、表意文字までは達しなかった。漢字ほどにも抽象化されなかった。そしてアニミズムを除いては一神教を持たなかった。文字を持たなかった民族は滅ぼされていくという鉄則があるようです」
文字、すなわち言語を記し共有する手段が、組織の存続に与える影響を洞察しています。また、一神教の場合と同じように、拠りどころとしてパーパスやブランドが明らかにされていることも、組織の存続と無縁ではないだろうと類推されます。
概念を記述し、記録し、流通できることの意義と理解できます。