マーケターズロード 鹿毛康司 #09

みんな「ブランド」という言葉を、バラバラな意味で使っていないかな ―鹿毛康司

前回の記事:
鹿毛康司氏が明かす、マーケティングで陥りがちな2つの罠
 2020年にエステーから独立し、かげこうじ事務所を立ち上げた鹿毛康司氏。昨年、今まで語られてこなかったマーケティング思考を初めてアジェンダノートで6回に渡って公開してもらった(マーケターズロード 鹿毛康司)。そして、その記事は多くのマーケターの注目を浴びた。独立して1年が経った今、さらに突っ込んで鹿毛氏の思考に迫った企画をお届けする(前回は、こちら)。
 

インサイトの存在を体験していないから、ブランドが理解できない


鹿毛康司(かげ・こうじ)
かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター
「お客様の心に向き合う」をテーマにマーケターとして活動中。同時にクリエイティブディレクターとしてCM監督、プランニング、コピー、作詞作曲を手掛ける。 雪印乳業を経て、2003年にエステー入社。同社を日本有数のコミュニケーション力のある企業に導く。同社執行役を経て、2020年に独立、かげこうじ事務所を設立。代表作は消臭力CM。11年震災直後の「ミゲルと西川貴教の消臭力CM」で一大社会現象を起こす。早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。 現在、グロービス経営大学院 教授、エステー コミュニケーションアドバイザー、日経クロストレンド アドバイザリーボードメンバー/Ad-tech 東京ボードメンバー。受賞歴:マーケターオブザイヤー、WEB人貢献賞、ACCゴールド、フジサンケイ広告大賞ほか。著書:『「心」が分かればモノは売れる』(日経BP)『愛されるアイデアのつくり方』(WAVE出版)ほか

 厄介な言葉が「ブランド」です。

 「ブランドをしっかりとつくっていこう」と掛け声をかけてもチームメンバーでは何もことが起きません。それどころかバラバラの活動が生まれることさえある危険な言葉です。

 ブランドという言葉が日常用語で頻繁に使われているものだから、誰もが共通として認識されていると思いこんでいます。もしくは、何となく使われているから、それを何となく使って煙に巻いているとしか思えないこともあります。

 取引のない広告会社さんが、私のところに新規の商談に来られました。ご自分たちがいかにブランドづくりに役に立つかを熱弁されました。でも、よくよく聞いてみるとテレビCMをつくって商品名の認知率を上げることだけを話されています。そして最後に「私たちにブランドを任せてください」と言われて帰っていかれました。

 ああ、このかたにとっては、ブランドは「商品名、ブランド名を覚えてもらうこと」ということがわかります。

 ある時はマーケティング担当者が施策の成果が上がらなかった時に「今回はブランド活動が重要だったわけです。すぐに売上増につながるものではありません」と言いました。

 すごく意地悪な言い方になるのですが、皆さん自分の仕事を正当化するために「ブランド」という言葉を使ってその場を凌いでいるわけです。

 ある人は、ブランドはみんなが良く知っている商品
 ある人は、並の商品よりも機能がしっかりしている商品
 ある人は、独自の世界観を持っている商品
 ある人は、高級品
 ある人は、ブランドはお客さまへの約束
 ある人は、精神的になんらかの共鳴できるもの


 このようにメンバーが曖昧な認識をしていると「さあ、ブランドをつくりましょう」と言っても、何もことは起きないですよね。

 解決策は、リーダーがブランドという言葉を使わずに具体的にお客さまと、そのブランドを通してどんな関係値をつくろうとしているのかを示す。もしくはブランドのことをきちんと勉強するかのどちらかなのかもしれません。
 
 ブランドは企業のものでなく、お客さまのものです。ブランドの設定をマーケターはできるけれど、それはあくまで机の中の企画書でしかありません。お客さまがどこまで認識してくれるか、機能の良さを理解してくれるか、世界観を持ってくれるか、共鳴してくれるかにかかっています。

 これは「機能VSイメージ」というようなステレオタイプな論ではないのですが、理解するのに皆さんてこずっているように感じます。その原因は、人の心の理解が薄いことなんだと思います。つまり、インサイトの存在を体験しないと本質のブランド論も理解できないと思います。

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