本田哲也、藤原義昭 特別対談

本田哲也、藤原義昭 特別対談「共創構造がつくる企業と顧客の未来」

 戦略PRの提唱者として知られるPRストラテジストの本田哲也氏の著書『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』が5月14日に出版され、マーケティング関係者の間でも話題になっています。
 
 
 日本を代表するダイレクトマーケティングのカンファレンス「ダイレクトアジェンダ」の昨年のテーマも「ナラティブ」だったことから7月の開催を前に、カウンシルメンバーである藤原義昭氏と本田氏との対談が実現。「ナラティブ」とは何か、なぜマーケティングにおいて重要になるのか、どうすれば企業に浸透するのか、など熱い議論を交わしました。
 
   

 

ナラティブとは「物語的な共創構造」

――今回、本田さんが出版された著書のタイトルと、藤原さんにカウンシルメンバーを務めてもらっている「ダイレクトアジェンダ」の2020年のテーマがどちらも「ナラティブ」だったということで対談が実現しました。今日は、「ナラティブ」を軸に、企業のマーケティングに何が必要か、議論できればと思っています。

本田 はい、この書籍を書く前からナラティブというワードには注目していましたが、そうした中で、ダイレクトアジェンダのレポート記事をアジェンダノートで拝見していました。     
   
本田 哲也
本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト
「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出されたPR専門家。1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、スピンオフのかたちでブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、マーケティング業界にPRブームを巻き起こす。P&G、花王、ユニリーバ、サントリー、トヨタ、資生堂、ロッテ、味の素など国内外の企業との実績多数。

2019年より、株式会社本田事務所としての活動を開始。著書に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』、『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。国連機関や外務省のアドバイザー、Jリーグのマーケティング委員などを歴任。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。

参考:あなたは「ナラティヴ」という概念を、マーケティング文脈で説明できますか?

藤原 昨年のダイレクトアジェンダはナラティブがテーマでしたが、その本質までは辿り着かなかったという印象を持っています。特に数値ばかりに目がいきがちなダイレクトマーケティングの担当者が集まる場ということもあって、その解釈が曖昧だった気がしました。   
   
藤原 義昭
ユナイテッドアローズ / 執行役員/DX推進センター担当本部長 CDO
1999年コメ兵入社。2000年に同事業部のEC立上げに携わり、2010年現在のIT事業部の前身であるWEB事業部を新部門として設立同部長に就任。2014年基幹システムを含む社内システム全般を統括するIT事業部に業務範囲を拡大し、WEB事業(EC、買取)ならびに全社WEBマーケティング、全社内システムを統括。2021年4月より現職。

本田 最初は「ダイレクトマーケティングで、なぜナラティブなんだろう」と思いましたが、顧客とダイレクトにつながり、共創するモデルであるD2Cの話に関連していると知って納得しました。

藤原 ナラティブというテーマは、FABRIC TOKYOの森雄一郎さんが提案し、オイシックス・ラ・大地の西井敏恭さんも共感して決まったんです。でも当時は、コミュニティの話をナラティブとして捉えていたと思います。まだまだ定義が明確にできていなかったと感じています。

――「ナラティブとは何か」、よく理解していない人も多いと思います。簡単にご説明いただけますか?

本田 藤原さんがおっしゃる通り、コミュニティが出発点でナラティブというワードは飛び交ってはいますよね。2年前の私だったら、まだきちんと説明ができなかったと思います。

私の書籍では、ナラティブについて「物語的な共創構造」と定義していますが、同じ物語を意味するストーリーとの違いについて、よく聞かれます。

ナラティブとストーリーの決定的な違いは3つあります。ひとつ目は物語の主人公である「演者」の違いです。ストーリーにおける主役は、あくまでも企業やブランドです。一方では、ナラティブでは、生活者自身が主役になります。

2つ目は「時間軸」の違いです。ストーリーには必ず始まりと終わりがあります。それに対し、常に現在進行形であるのがナラティブです。

3つ目は「舞台」の違いです。ストーリーの舞台は、企業が属する業界や競争環境です。一方で、ナラティブの舞台は社会全体になります。



――書籍の中には事例が多く盛り込まれ、とても理解しやすかったです。なぜ今企業にとってナラティブが大事になるのでしょうか?

本田 3、4年くらい前から、マーケティング業界でもナラティブというワードが聞かれるようになったと感じています。企業や消費者など立場の違う人たちの共創が可能になったという世の中の変化が前提にあります。

例えば、SNSによってブランドと消費者が直接つながり、上下関係なく友だちのような対等な関係になるといった変化が起こりました。それが、今回のコロナ禍で加速した面があると思います。その加速した変化を、書籍の中では3つの変化としてまとめています。

1つ目が「共体験」です。共感は「何となく良いと感じる」程度ですが、共体験はスポーツのように同じ空間で同じ体験をすることで、価値を共有できる状態を指します。

2つ目が「社会的距離」です。今となっては感染対策の言葉になっていますが、もともとは社会学で「ある集団と、ある集団の距離」を指していました。民族同士の社会的距離という意味です。

新型コロナウイルスの感染拡大により、物理的な集合や巨大イベントができなくなりました。これを機にオンラインかオフラインかを超えて、エンゲージメントの取り方が再構築されるタイミングになったのです。

3つ目が「自分らしさ」が大事になっていることです。英語だと「オーセンティシティ(正当性)」になりますが、日本語でその本意を汲めば、人間としてもブランドとしても裏表がないこと、言動と行動の整合性が取れていることを言います。この「自分らしさ」を出すことが求められ、適当に取り繕う企業は、顧客とのコミュニケーションで排除されるようになりました。

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