マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #07
あなたは「ナラティヴ」という概念を、マーケティング文脈で説明できますか?
2020/02/26
NARRATIVE(ナラティヴ)とは何か?
あなたは「ナラティヴ」という概念を、マーケティングの文脈として説明できますか?
数年前から言葉自体は耳にするようになったが、具体的に何なのかよく分からないという方は多いのではないだろうか。
私もその一人だ。2020年2月6日から2日間、今回で4度目の開催となる「ダイレクトアジェンダ2020」に参加した。新たなダイレクトマーケティングの可能性を見出す合宿型のカンファレンスであり、ブランド企業、パートナー企業のマーケター約250人が宮崎に集結した。今回、そのテーマとなったのが『NARRATIVE(ナラティブ)』だった。
宮崎での2日間、私は多くの方と会話し、「ナラティヴ」という概念をリアルな肌感として理解することになる。今ではマーケティングにおける「ナラティヴ」を自分の言葉で語ることができる。今回の記事から数回に渡り、私が何を収穫し、今後どのように行動を変えるつもりなのか。その一端を共有できれば幸いだ。
ナラティヴと検索すれば、あらゆる捉え方、使われ方をする言葉ということが分かる。日本でも注目されるようになったのは、米トランプ政権の誕生がキッカケのようだ。シンプルなストーリーをワンウェイで押し通そうとする人間と、リベラルでそれに抗おうとする人間の対立。それによる国の分断。フェイクニュースの横行。
日本語ではストーリーとナラティヴのどちらも「物語」と訳されるが、一方向的に押し付けがちなストーリーと、双方向的で社会構成主義的なナラティヴは別物であるということが、米トランプ政権誕生による混乱を思い出すと理解しやすい。ナラティヴは与えられる物語ではなく、自分が感じている主観性を語るものと解釈できる。
一般的な概念としてのナラティヴを理解できたとして、それが目の前にあるマーケティング業務の何を変えるのか?
そのヒントは、ダイレクトアジェンダの1日目と2日目のキーノートセッションから読み解くことができる。
キャズムを超えた「ソーシャル」へのマインドチェンジ
1日目のキーノートは、立場の違うブランド企業が集客チャネルやCRMなどの実行手段ごとに「○× 評価」を記し、各社の違いが一覧で比較される形式で進む。なぜ○なのか、なぜ×なのか、という理由を深掘りすることで、各社の狙いや時流の変化を感じ取ることができる名物コンテンツとして、過去3回に渡って実施されてきた。今回は、ダイレクトアジェンダ初回である2017年開催時の各社の実施状況と2020年とを比較し、過去3年の変化を振り返り、また今後のあり得る未来について語られた。
象徴的な変化として注目されたのが、集客手段として「純広告」が死語となり、「ソーシャル」が増えたこと。各社ともソーシャル上で評価されなければ、売れない時代と考えている。余談だが検索エンジンのGoogleもこの流れに呼応するかのように見える(サイテーション:SNSや第三者の記事などで自社ブランドの名前がポジティブに言及されることを評価するとされる)。
ソーシャル活用は、①広告出稿、②自社ブランドのアカウント運用、③一般ユーザーによる自社ブランドへの言及、の3パターンを押さえる必要がある。
①は過去3年で広告配信面としてのボリュームが増えて、広告配信手段が充実した結果、出稿量が増えたことは事実だろう。しかし今回語られた本質は、広告の出し先のリプレイスという単純な話ではなさそうだ。
②は何年も前から当たり前のように企業アカウントが運用されるようになったが、一部の担当者がキャンペーンでバズらせる、といった取り組みとして落ち着いているように私には見える。
今回、登壇した面々からは、マーケティングのトップ自らが、無数のソーシャルの声に耳を傾けようという、③に対するマインドチェンジがキャズムを超えた印象を受けた。
これが、3年間の潮流の変遷が訴えかける、ナラティヴ化への変化の兆しであることは確からしい。しかしそれがマーケティング全体にどの程度インパクトのある話なのか。スライドで図解されている通り、方法論のひとつとしてソーシャルのウェイトが高まったという結果に過ぎないのではないか?同時に新たな疑問が生まれた。