音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #31

採用面接でマーケターの向き・不向きを見抜くために使っていた質問【音部で壁打ち】

前回の記事:
P&G人事リーダーからの「面接担当者向け」3つのアドバイス【音部で壁打ち】
 

“向き不向き”が分からない時に使う質問


【質問】

音部さんがマーケティング責任者を務めていた時、採用面接で何を確認していましたか?そして、どういう人材であれば、採用していましたか?

 前回は、面接担当者として大事なことを紹介ししました。今回は、「施策の立案に関する質問」と「バイアスから抜け出す視点の自由度に関する質問」を紹介します。

 肝心の質問は、マーケティングに向いている人材を見出すための質問です。志望動機や自己PRなどの会話から見極められることもありましたが、向き不向きがわかりにくい場合に投入するピンチヒッター的な質問となりました。

 長く愛されるブランドをつくるためには、消費者に使い続けてもらう必要があり、そのためには満足してもらわなくてはなりません。経験的には、満足は消費者の期待を少し超えられたときに生まれることが多いようです。期待を理解して超えるか、期待を設定して超えます。いずれにせよ、うまく期待を超える働きかけが重要です。そこで、次のような質問をしていました。

 「あなたがいままでに贈ったプレゼントで、もっとも喜んでもらえたときの話をしてください」
         

      
 誕生日であれ、記念日であれ、期待を超えるプレゼントをした経験は、“期待を超えるブランド体験”の提供と似ています。相手を理解し、喜んでいる様子を想像して、うまく実行するのは、ターゲット消費者を理解し、目的を設定して、消費者満足を実現するのと変わりません。プレゼントを贈るのが上手なら、きっとうまい施策を考えられるでしょう。
 

視点を飛ばすための質問


 戦略の立案であれ、施策・活動の計画であれ、創造性はとても重要です。“透徹した明晰なロジック”と“斬新な発想のクリエイティビティ”は、対立するものだと思われがちですが、両者には共通の障害があります。浅薄なロジックと凡庸なクリエイティビティは、無意識のバイアスによって思考が狭められているのが原因かもしれません。であるなら、そうした有象無象のバイアスの向こう側に行く力があれば良さそうです。そこで、次のような質問をしていました。

 「週末ののんびりした午後、誰かとランチです。天気がいいので、日当たりの良い窓際に座りました。白いテーブルクロスの上には、すでに料理も並んでいます。休日なのでグラスのワインなどもあるかもしれません。そして、その脇にグラスに入った水があります。さて、このグラスの水をできる限りたくさん解釈してみてください」
            

     
 水の入ったグラス、グラスに入った水、陽の光をうけてキラキラ綺麗なテーブルの上のオブジェ、お花をいれれば一輪挿し、料理の間にお口直し、手が汚れたのでフィンガーボール、服が汚れたのでハンカチを湿らせて応急処置、店員が素敵だったので水をたくさん飲んで会話のチャンスを増やすなど、人によっては20個ほど出てきます。

 この質問は発想テストのようですが、正解があります。「この水だけ無料」というのが答えです(お店によっては、水も有料のことがありますけれど)。

 実は質問をしたときにビジュアル・バイアスを掛けています。日当たりの良い窓際、白いテーブルクロスなどと言われると、頭の中に映像を思い浮かべてしまいます。そして、いったん映像を思い浮かべると、そのビジュアルによってバイアスが掛かります。これで、ほとんどの人は目で見える範囲のことしか答えられなくなってしまいます。

 そうしたバイアス下にありながら、「ここだけ無料ですね」などと答えられる人は、ビジュアル・バイアスから自力で脱することができています。視点を飛ばせる、稀有な人です。

 結果的には、この質問は正答率がとても低くいものでした。数百名の受験者のうち、回答できたのはたったの2人だけです。これだけ出現率が低いと、全員に聞く意味はなかったと言えるでしょう。でも、ちょっとした特殊能力を持つ人を見極められたので、個人的には意義深い質問だったと思っています。

※連載音部で「壁打ち」の質問も募集中!音部大輔さんが皆さまからの質問に答えてくれます。 こちらでお待ちしています。

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