日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #19

渋谷駅前に出現、話題のNetflix広告「下を見ろ、俺がいる。」の“分からない”という強さ

 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第19回です。
 

「上を見ろ、星がある。下を見ろ、俺がいる。Netflix。」の意味

 
 
制作を手がけたクリエイティブ集団 カイブツのHPより
 筆者は、実際にこの広告に渋谷で遭遇したわけではなく、インターネット上で見たのですが、それにしてもそのインパクトに視線を釘付けにされました。

 ビルの壁面のかなり上の方に「上を見ろ、星がある。」の巨大文字。その少し下に視線を移すと、「下を見ろ、」とあって、さらに下の地上近くの見る側の目線に近いところに「俺がいる。Netflix」とあります。

 ビジュアル要素はありませんが、「上を見ろ、星がある。下を見ろ、俺がいる。Netflix」というメッセージに沿う形で見る人の目線が移動し、ある種の動きが感じられる表現になっています。

 それにしても、多くの人はこの広告を見ても何のことか、分からないでしょう。広告は必ず発信者を明示しなければならないので、最後の最後にNetflixのロゴが掲示されています。

 Netflixは今や多くの人が使っている定額制動画配信サービスのひとつですが、この広告のメッセージがNetflixの特徴を表しているとは思えず、見る人は何が何やら“分からない”状況です。
 

「全裸監督シーズン2」をどう伝えるか?


 調べてみると、この屋外看板はNetflixのオリジナル作品『全裸監督シーズン2』の広告で、同じ時期に主演の山田孝之さんが登場するバージョンも含めて、渋谷のあちこちで屋外広告が展開されていました。
 
https://www.netflix.com/jp/title/80239462

 「下を見ろ、俺がいる。」というフレーズは、この映画の主人公のモデルである村西とおる氏の著書のタイトルでもある「人生、死んでしまいたいときには下を見ろ、俺がいる。」という、氏の有名なフレーズに由来しています。

 村西とおる氏は、AV監督として一世を風靡した後に巨額の借金を抱え、“天国と地獄を味わった男”と呼ばれています。前半の「上を見ろ、星がある。」は、高いビルの壁面という広告掲載場所のスペース特性を活かすために、制作チームが加えたものでしょう。

 従って、『全裸監督シーズン2』の視聴に興味があったり、村西氏のフレーズを知っていたりする人にとって“だけ”は、この広告の意味は分かるわけです。しかし、それ以外の人にとっては、フレーズとしては興味を抱かせられるけど、何のことか、さっぱり分かりません。

 例えば、今回の広告の最後に「『全裸監督シーズン2』 Netflix」などと作品名も付いていたら、筆者程度の知識でも「あー、全裸監督シーズン2のシーンやセリフと関係があるのだろうな」と想像がつきます。しかし、この広告の送り手は、あえてそうしませんでした。『全裸監督シーズン2』の文字は入れずに、Netflixとだけ掲示したわけです。

 広告表現では、普通は「『全裸監督シーズン2』Netflix」と入れます。通常、広告表現において、“分からない”ことは敵だからです。最初の方では“分からない”ことで興味を惹こうとしても、最後には分からせるのがスタンダードな考え方です。

 そんな中、あえて作品名は入れずに、“分からない”ことで、より広範な層へのインパクトを狙ったと考えられるでしょう。

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