音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #32

誰でもできる、大きな視点から「戦略」を立てるコツ【音部で壁打ち】

前回の記事:
採用面接でマーケターの向き・不向きを見抜くために使っていた質問【音部で壁打ち】
 

中世ヨーロッパの「3人の職人」の話から分かること


【質問】

「細かい所から大きい所を考えるのではなく、大きい所から細かい所へ落とし込む考え方を身につけるように」と注意されます。早く身につける方法やコツがあれば、教えてください。



 「職人の話」を聞いたことがあります。記憶の中でいくばくか変質しているかもしれませんが、おおむね次のようなお話です。

 中世ヨーロッパのある町の中心にある広場でのこと。大掛かりな建築現場に、ひとりの旅人が通りかかります。旅人は興味をもち、ひとりの職人に「何をしているのか」と尋ねます。職人は「見ての通り、石を積んでいるんだよ」と答えました。「これがおれの仕事だからね、こうしてきれいに磨いて、石材を積み上げるんだ」

 さらに興味をもった旅人は、もう少し行ったところで別の職人に同じ質問をしました。こんどは、少し異なる答えが返ってきました。

 「大きな石壁を作っているところさ。柱も石造りで、木の壁とは比べ物にならないくらい頑丈だ。こいつは、いままで作った中でも特大サイズだ」

 みんなで、石壁をつくっているようです。

 旅人はさらに進み、メインストリートに面して少し開けた場所にいる職人にも、同じ質問をしてみました。またまた違う説明を聞かされました。

 「おれたちは、この町の中心になる大聖堂を建てているんだ。子孫の代まで町の繁栄のシンボルになり、人々を救済する立派な大聖堂だ」

 最初の「石を積んでいる」という石工にとって、仕事は石を積むことです。これは、「作業の対象」を中心とした見方です。木材を組んだり、地面を掘ったりではなく、石材を積みます。難しい形の石も、異なる種類の石も、石材に加工して積み上げることに習熟しています。1000年経っても水も漏らさない、見事な接合面を磨き出すかもしれません。

 対して、「大きな石壁をつくっている」という大工は、石を使って建築物をつくることを仕事だと考えています。「作業の結果」に注意を向けた見方です。大きな壁だけでなく小さな壁や柱もつくり、あるいは石材ではなく木材も扱ってきたようです。丈夫で倒れにくい壁や柱を、短い工期と最小の人数で建てる技術を習得してきたかもしれません。

 最後に「町の中心になる大聖堂をつくっている」と答えた職人は、この現場の棟梁だったのでしょう。ケン・フォレットという作家のベストセラー小説『大聖堂』を読むと、当時の様子がよく分かります。城が軍事と政治の中心であるとき、大聖堂は社会と経済の中心だったようです。立派な大聖堂があると各地から巡礼者が訪れ、市(いち)が立ち、物や人が集まってきて町は繁栄します。そうした町の発展のビジョンのもとに、大聖堂を建設しているのでしょう。

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