日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #21

クルマがまったく動かないが、成立する。固定観念を捨て去ったダイハツのテレビCM

 

延々と続く動物の映像。えっ?走りのシーンは入れないの? 


 海外にも、走りも内装もユーザーイメージも出てこないクルマのテレビCMがあります。筆者が審査員を務めた年(2004年)のカンヌ国際広告祭受賞作です。

 そのテレビCMは、元気のないライオンや虎などの映像から始まります。渋い歌声は、「日が暮れて来たけど、僕はここにいるだけ」と歌い出します。そして、鬱屈して元気のないチンパンジーやカバ、サイと延々と動物の映像が流れ、どうやら動物園にいることがわかります。歌声はさらに「僕の魂は鋼鉄になってしまったようだ」と続きます。つまりこの動物たちは、本来であれば、野生の中で生き生きと活発に暮らしているはずなのに、動物園に閉じ込められて、すっかり生気を失っているわけです。

 開始から40秒ほど経ったところで、やっとクルマが登場します。Audi Allroadという、おそらくはアウトドア好きの人向けのクルマです。整備された都市の道路ではなく、道なき道も乗り越えて走れるような、キャンプ愛好者向けのクルマでしょう。

 そのAudi Allroadは、都会のマンションの地下駐車場と思われる場所に、やはり元気のない風情で停まっていて、そこに「どこにも居場所がない」という歌声がかぶさります。最後に「誰もが都会に住むために生まれて来たわけではない」というメッセージと商品名が映し出されます。

 つまり、このテレビCMは、Audi Allroadの潜在顧客であるクルマでアウトドアに出かけるのが好きな人々に向けて、「君も日々の都会生活に嫌気がさしているだろう?さぁ、このクルマを買って、週末は思いっきり自然の中へ出かけようよ!」と訴えかけているわけです。
 
Audi Allroad “Zoo”のテレビCM(ただしスペイン語版・音声なし)

 当時の僕にとって、この広告は衝撃的でした。なぜなら、“都会の地下駐車場で鬱々としている商品”しか出てこないからです。コンセプトは分かるし発想も分かる。でも、自分が制作チームの一員だったら、最後に3秒ほど「爽快に自然の中を走るAudi Allroadのシーンを入れようよ」と、無粋にも主張してしまいそうです。

 もちろん、最後に“爽快に自然の中を走るクルマのシーン”を入れてしまったら、それこそ広告臭さが満載で、鼻白(はなじろ)むことこのうえなし、という感じもよく分かります。これはこれで魅力があるなぁ、という見解でした。

 クルマの広告は、走りを見せるもの、インテリア(内装)を訴求するもの、登場人物でユーザーイメージを表現するもの。そんな固定観念を捨て去って、その商品に相応しい、その商品なりの広告表現を考え出す。

 基幹産業であり、多くの蓄積があるクルマのテレビCMだからこそ、チャレンジのしがいはありそうです。
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