音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #34

マーケティング初心者は、何を学ぶと良いのか【音部で壁打ち】

前回の記事:
マーケティング視点から解説。日本でDXが進まない、本当の理由【音部で壁打ち】
 マーケティング・プロフェッショナルである音部大輔氏が、マーケティングの現場で悩んでいるマーケターからの質問に対し、自身の経験をもとにアドバイスする連載企画「音部で『壁打ち』」。今回は、2021年の最後の回として、特別に2つの質問に答えます。テーマは「マーケティングの学習」と「差別化」についてです。
  

「本質的な質問」に音部さんが回答

  

【質問】

 マーケティングを学ぶためには、どうしたらいいでしょうか?
 
 以前、「BtoBビジネスとBtoCビジネスのマーケティングは同じですか?違いますか?」と聞かれたことがあります。当時、BtoBについて大した知識も経験も持ち合わせていなかったので、私はその違いについてうまく説明できませんでした。

 きちんと振り返れば、ほとんどのBtoCビジネスも実際にはBtoBのクライアントであり、同時にBtoBのサプライヤーでもあるのですから、実は身構えるほどの問いではありません。BtoBであれ、BtoCであれ、意思決定しているのも、ベネフィットを享受しているのも「人間」です。そうであれば、つまるところ人間に意思決定してもらえるように働きかけていくのが多くのマーケティング活動です。この部分では、BtoBとBtoCのマーケティング活動に本質的な違いはありません。意思決定の規準として、ベネフィットや製品性能、パーパスやSDGs、ESG、自我や社会との関係などさまざまな要素が出入りする点や、新しく「いい商品」や「いいサービス」を提案していく様子も同じです。

 一点、異なると思われる点が、意思決定者の自我です。会社の役割や立場にもとづく自我は、社会や家庭での自我とは異なります。自我が異なれば同じ人間でも行動が異なります。母としての意思決定と、妻としての意思決定と、部門長としての意思決定と、役員の部下としての意思決定では、それぞれ重視する属性は同じとも限りません。

 そうした自我に影響される個々の人間の意思決定に働きかけるためには、情報や経験などの入力に対する多種多様な反応を通して「人間理解」を進めることがとても重要だと思います。人間理解を重視するのはマーケティングに限ったことではありませんが、マーケティングでは、「パーセプション(認識)が変化する仕組み」と「パーセプションを変化させる働きかけ方」に着目するといいでしょう。「仕組み」を理解し、「働きかけ方」に習熟することは、いいマーケターになる第一歩だと思います。

 それから、消費者を見ていくときに、その自我を捉えることがポイントです。前述のように、同じ人間でも自我によって選択基準や行動が変化します。自我は社会学の中では「役割」でもあるので、人間の自我や役割が行動に与える影響を観察するとマーケティングで世の中をより良くすることに役に立つと思います。仕組みと働きかけ方、自我、パーセプションの変化などについては、私の近著『The Art of Marketingマーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解説』にも詳述しました。ブランド企業にも、広告会社にも有益であると思います。
   
音部氏の新刊好評発売中 (詳細はこちら
  

【質問】

 マーケティングの仕事をしていますが、「差別化」が難しくて悩んでいます。差別化するためには、何をどのようにしたらいいのでしょうか?
    
 そもそもブランドを構成する主要素は、「消費者」と「ベネフィット」の2つです。製品カテゴリー上の競合に対して、異なる消費者やターゲットを設定することで構造的に差別化できるでしょう。たとえ競合と同じ消費者をターゲットにするとしても、異なるベネフィットを提供すれば、差別化につなげられます。

 当該製品カテゴリーでもっとも重要な属性について、「競合よりも高い製品性能を満たすことができれば競争に勝てる」という考え方があります。直感的に正しそうです。私も長らくそう思っていました。ところが、多くの市場やブランドを経験してきたにも関わらず、そうした実例をいまのところ知りません。市場2位以下のブランドが1位になるときには、カテゴリーでもっとも重要な属性が変化しています。ご自身の市場でも観察してみてください。実例を見つけたら、編集部までご連絡ください。新しい知見としたいと思います。
 
 ほとんどの場合は、競合とは異なる「いい製品」や「いいサービス」を提案し、それが受け入れられたときに市場が再創造されます。効果的な差別化は、同じ問題を新しい課題で捉え直す作業ともいえるでしょう。結果的に、新しいベネフィットが生まれます。『The Art of Marketingマーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解説』のコラム#2、あるいは『マーケティングプロフェッショナルの視点』の第1章に詳述しています。

 今年も1年お付き合いいただき、ありがとうございました。社会的にも変化の多い1年でしたが、何を経験し、どのような学びを得られましたか? どうぞよいお年をお迎えください。

※連載音部で「壁打ち」の質問も募集中!音部大輔さんが皆さまからの質問に答えてくれます。 こちらでお待ちしています。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録