日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #24
ダイソンのテレビCMに注目 「お求めは直接つくり手から」で伝えるD2Cビジネスのメリット
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第24回です。
ダイソンのテレビCMが、筆者のPCを打つ手を止めさせた
D to C(D2C)という言い方が注目されています。Direct to Consumerの略で、メーカー企業が自社Webサイトなどで直接消費者に販売することですね。間に入る流通企業の働きや取り分がなくなるわけですから、メーカー企業はその分安く売ったり、あるいは利益を増やしたりできるわけです。
ごくごく雑駁(ざっぱく)に、単純な数字で考えてみましょう。今までお店で1万円で売っていて、流通企業の取り分が3000円で7000円で卸していたとします。それをD to Cで9000円で消費者に売ると、配送料や手数料などに1,000円かかったとしても、メーカー企業の取り分は8000円となり、利益が1000円増えるわけです。消費者は1,000円安く買えて、メーカー企業は1000円多く利益が出せる。流通企業以外にとっては、良いことづくめですね。
しかし、マーケティング論の基礎の基礎である4P理論では、4つのうちのひとつのPがPlaceです。Placeが基本的に流通の在り方を指していることにも表れているように、長い間に渡ってメーカー企業と流通企業は協力し合い、手に手を取り合って発展してきました。ビジネスの現場に行くと、メーカー企業の営業がいかに流通企業の意向を慮っているか、ひしひしと感じます。
ネット通販登場以前(つまりはD to C登場以前)は、流通企業の店舗に置いてもらえなければ、いくら良い製品でも売れなかったのです。メーカー企業にとっては、「棚の確保」が重要な課題で「棚落ち」はとにかく避けるべきことでした。D to Cは、その重要な取引相手である流通企業の仕事を奪うことにもなりかねません。だからこそ、多くのメーカー企業は「我が社のWebサイトからもお求めいただけます」といった控えめな調子のメッセージしか発してこなかったですし、影響力の大きいテレビCMで声高には語ってきませんでした。
ところが、ダイソンのテレビCMは、はっきりと「お求めは直接つくり手から」と、耳につく表現で訴えます。テレビをつけながら仕事をしていた筆者のPCを打つ手も一瞬止まりました。こう言われると、先ほど言及した「作り手と使い手のウィンウィンの関係」がハッキリと想起されます。「そりゃ、間にいろんな人が入らない方がいいよな」と思ってしまう。実際、我が家では、ダイソンの製品は以前からD to Cで購入しています。