日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #29

「いったん、しおりを挟みます」一時閉店を巨大しおりで表現。三省堂書店の“らしさ”が話題に

前回の記事:
主人公のキウイが他の健康法を過激に批判、ネットで話題の人気CMを分析
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第29回です。
 

三省堂書店本店のビル壁面に登場した巨大しおり


 皆さんは、本を読むとき、デジタル派ですか、リアル書籍派ですか、それとも併用派ですか?

 私自身は、デジタル書籍が出て来た当初は、そこそこデジタルで読んでいたのですが、ある時期からすっかりリアル書籍派に戻っています。

 若い頃から何か悩みごとがあると、本屋さんに駆け込む癖がありました。本屋さんで関係のありそうな書棚前に1時間くらい陣取り、様々な本を手に取り少しずつ読んでみて、良さそうな本を買って帰って読むことで、なんとか悩みを乗り越えて来たという過去があります。

 多かれ少なかれそうした類の記憶をお持ちの方は、皆さんの中にも少なくないのではないでしょうか。そしてまた、リアル書籍の読み方としては、一気に読み切ってしまうことは稀でしょう。何日か、時には数週間かけて読むのがスタンダードで、読み進めるのをいったん休む時に“しおり”を挟む体験も広く共有されていると思います。

 そんな読書体験や書店体験の総本山とも言える「三省堂書店神保町本店」が、ビル建て替えのため、2022年5月から2025年まで一時閉店することになりました。その閉店の時に本店ビルに掲出されたのが、「いったん、しおりを挟みます」と記された巨大しおりです。
 
三省堂書店によるニュースリリース

 この巨大しおりはSNSを中心にまたたく間に話題となり、そのほとんどは好意的な投稿でした。筆者自身もSNSでこの巨大しおりについて知り、大きくうなずきました。老舗書店の本店の一時閉店を伝える方法として、書店や書籍のらしさ全開で、みごとに共感を勝ち取った事例と言えるでしょう。
 
三省堂書店の公式Twitterでも、ビル壁面の巨大“しおり”を見ることができる。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録