TOP PLAYER INTERVIEW #31

「CRM嫌い」で有名なファミマ 足立光氏は、本当にCRMが嫌いなのか

 

本来のCRMは、One to Oneのコミュニケーション


足立 今はCRMと言えば、データを使ったマーケティングのように捉えられていますが、20年前はそうではありませんでした。そもそも、江戸時代の呉服屋が一人ひとりのお客さまのことを覚えて、そのお客さまに合った受け答えや提案をすることも立派なCRMですよね。現在は、データが増えてきたので「CRMでもっとできるのではないか?」という幻想があると思うんです。

志賀 はい、CRMは魔法の杖ではないので、それだけで売上が2倍、3倍になるかというと、おそらくそんなことはないですよね。僕らがしているCRMは、まさにリレーションシップ、つまりお客さまとの関係性を良くする活動だと捉えています。UXに近い発想でしょうか。

足立 現在のCRMという言葉の扱う領域が広すぎるんです。そのため「CRMが必要か、そうでないか」という話は、「デジタルが必要か、必要でないか」と同じくらいに広い概念です。だから、一概に「CRMが良いか、悪いか」というのは言いにくいんです。

志賀 そうですね。本来のCRMは「One to Oneでお客さまとの関係性を良くしていこう」という活動だと思います。それが全てデータから実現できるかというと、そんなに簡単な話ではないということです。単純にクーポンやポイントの付与で来店回数が上がるというのも幻想だと思っています。

GDOでもポイントを活用してはいますが、ビジネスに効果的かと言われると、そうではないケースもあるんです。私はどちらかと言うと、デジタルを活用してお客さまとのコミュニケーションの質を上げることを重視しています。

足立 自分を一消費者として考えたときに「これがあったから思わず、また買っちゃったよ」というCRM施策はあるかというと、実は意外に少ないんですよ。そうした勘違いでよくあるのは、誕生日に送られてくる割引クーポンです。誕生日だからその商品を買えというのは、私からしたら逆効果だと思うんですよ。
     
対談中の志賀氏(左)と足立氏(右)


志賀 それは、その施策自体が足立さんに合っていないということですね。本来はCRMでそれを嗅ぎ分けなければいけないんですが、それが分かるほどお客さまの顔が見えているかというと、そうではないからですね。

うちは電子チラシを毎週メールで届けるのですが、私からするとそんなに送っても迷惑だし、もはやスパムだと思ってしまいました。でも、配信を止めるとクレームが来るんです。「毎週このチラシを見てウキウキしているから、配信を止めないでくれ」と。こうしたお客さまにはチラシを届けることが、おそらくCRMなんです。おそらく、足立さんが誕生日メールが逆効果だと感じていることを、送信側は想像もしていないと思いますね。

足立 そうですね。むしろ、よかれと思って送っていると思います。でも、直近1年間で1度も行っていない洋服屋から「いつもご愛用いただき、ありがとうございます!誕生日おめでとうございます!」と連絡が来ても、嬉しくないんですよ。そんなの自動で送信されていると分かりますし。顧客との接点を維持するという意味では実施した方がいいのかもしれないのですが、もう少し受け取る側のことを考えてほしいですね。

志賀 何もメンテナンスせずに、クーポンを送り続けてしまうのは、悪しき習慣ですね。本当にお客さまのことを考えたら、思い切ってやめるか、別の価値を提供するかを考えなければいけません。

足立 もちろん完全なOne to Oneコミュニケーションがベストですが、そんなことは多くの企業にとって理論的にできません。しかし全員に対して同じコニュニケーションではダメなので、そのバランスを探る必要があります。バランスというのは、お客さまに喜んでもらえることをきちんと行いながら、ビジネスとして成立するセグメント分けをするということです。それが重要だと思います。

※後半に続く

続きの記事:
「お客さまの喜びこそCRMの本意」ファミマ 足立光氏 GDO 志賀智之氏対談【後編】
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