日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #30

自社ではなく、ビジネス仲間を応援。サントリーの秀逸企画「人生には、飲食店がいる」

前回の記事:
「いったん、しおりを挟みます」一時閉店を巨大しおりで表現。三省堂書店の“らしさ”が話題に
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第30回です。
 

仲間が盛り上がれば、自社も繁栄。サントリーの秀逸企画


 ここ2~3年のコロナ禍で、生活者である我われは飲食店から遠ざからざるを得ず、飲食店に関わる皆さんは、ひじょうに厳しい日々を送っています。そんな中、自社商品の主な消費場所である飲食店応援をメインに据えた、サントリーの「人生には、飲食店がいる」キャンペーンが胸を打ちます。

 テレビCMは2種類。吉高由里子さんのナレーションで飲食店に対する想いが語られる『メッセージ』篇と、数々の映画から飲食店のシーンを抜き出してつないだ『人と』篇です。どちらも、ザ・ブルーハーツの『情熱の薔薇』が印象的に起用されています。
 
テレビCM『メッセージ』篇
 
テレビCM『人と』篇
 
『人と』篇では、25もの映画の様々な飲食店シーンが映し出されつつ、以下のナレーションが流れます。「時代は変わって行く。生き方も、常識も、価値観も、どんどん変わって行く。それでも人は、これからも、きっと笑い合う。きっと、くだらない話をする。きっと、弱音を吐く。きっと、恋をする。時代は変わって行く。それでも人は、人と生きて行く。今日もまた、笑って、語って。人生には、飲食店がいる。」

 私自身、お酒を愛好しているし、飲食店で飲むのも大好きです。そんな自分のような人にとっては、大きく共感できるシーンの連続であり、メッセージだと言えます。さらに、長引くコロナ禍で気分的にも落ち込んでいる飲食店関係者の皆さんにとって、どれほどの励ましになったことでしょうか。コロナ禍での様々な規制で、飲食店関係者は、ビジネス的にだけではなく気持ちの面でも大きな負担を強いられていたからこそ、深く心に響いたはずです。

 さらに、サントリーのWebサイトから飲食店が自由に使える複数のポスター(小さくプリントアウトすればステッカーとしても活用可)がダウンロードできます。「飲まなくたって会えるけど、そういうことじゃないんだよな」とか「飲んでる時の不毛な会話。あれ人生に必要だったんだなって、今ならわかる」など、飲食店になかなか行けなかった日々を踏まえた様々なコピーが並んでいます。
 
https://www.suntory.co.jp/enjoy/inshokuten/

 この辺りは、心憎いまでに、きめ細やかに広告コミュニケーションを設計していると感じます。実際に私は、よく行く飲食店でこのステッカーが貼られているのを見ました。

 サントリーにとって飲食店を味方に付けることは、自社の商品を多く売るためには欠かせないことで、そうした意味でメーカーの戦略としてもまったく理にかなったことだと思います。

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