日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #31
猛暑で日陰だけを無理して歩くタクシー配車アプリのテレビCMは、20年前のNIKEの名作を思い出させた
20年前、カンヌ贈賞式で拍手喝采を浴びたNIKEの名作CM
GOのテレビCMは筆者に、20年前に初めてカンヌライオンズを訪れた時のことを思い出させました。
それは2002年の6月、フィルム部門の贈賞式でゴールドを受賞したNIKEのテレビCMに、会場からは惜しみない賞賛の拍手が送られたシーンです。“Shade Running”と名付けられたそのテレビCMは、日陰を求め続けるという点ではGOのテレビCMと同様ですが、徹底的にカッコよさが追及されていて、笑いはまったく追いかけていないという点では、はっきり異なっていました。
ビルの高層階付近からカメラが地上に近づいて行くと、ひとりの女性がランニングをしています。急に少し左に進路を取るなど、ちょっと不自然な動きも見られます。道を渡る時も、ビルとビルを2階で繋ぐ通路の下を、わざわざ通っています。きっと暑い日なのでしょう、どうも、日陰を選んで走っているらしいことが、だんだん分かって来ます。
その角を曲がるとビルの陰が切れてしまう交差点に差しかかると(GOのテレビCMでは、ここで“どうする?”となるわけですが)、通りかかった大型自動車に併走する形でその陰を利用して道路を渡ります。さらに記念塔の陰も使い、クレーン車が持ち上げて動かしている大型工事用品の陰も動きに合わせて活用して、彼女は徹底的に日陰をランニングします。
さらには大型飛行機が上空を通ると、軽く上空を見上げ、スピードアップしてその動きに合わせて陰を利用します。そして、ビルの陰を利用しながら壁にもたれて一休みする女性ランナー。そこにSHADE RUNNINGの文字が映し出されます。
最後、向かいのビルの上層階の窓に太陽が反射して、彼女の履いているナイキのシューズにスポットライトが当たります。商品をしっかり見せているわけです。しかし、日が当たったことを良しとしない彼女は、わずかに足を動かして、シューズを再び日陰に入れて、終了となります。最初から最後まで、徹底的に気が利いていて、嬉しくなってしまいます。
GOのテレビCMの企画者が20年前のNIKEの名作を知っていて参考にしたかどうかは分かりませんし、もし参考にしていたとしても、まったく問題はないと思います。
私としては、暑い日に日陰を選んで通って行くという同じモチーフが、片や徹底的にカッコよく、片やクスっと笑いを誘う形で、20年の歳月を経て活用されたことを、とても愉快に感じました。
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