大学で学んだマーケティングの知識は、社会でも役立ちますか？【音部で壁打ち】

 

大学のマーケティングの授業で学ぶべきこと

 
 社会に出て役に立たない程度のマーケティングの知識なら学ぶ意義は少なく、そもそも「学んだ」と言うべきものではないかもしれません。とはいえ、大学での2～4年間の講義や議論をもって、自分自身を即戦力のマーケターであるかのように感じているとしたら、実践で「若さゆえの勘違い」を実感することになると思います。その「若さゆえ」は、私のいつか来た道でもあります。旅の恥と駆け出しの赤っ恥はかき捨てておけばよろしい。いずれ大人の特権として自らの勘違いを認められるようになるものです。

 「大学で学んだマーケティング」といっても、誰から、どういった仲間と、どのように学んだか、などにも依ります。なかなか一括りにすべきものではありません。しかも、そうした変数の組み合わせにはセレンディピティ、予期せぬ幸運も働くので、上等な環境などというものも、なかなか明示できません。そこで、そもそも「役に立つ」とはどういうことかを明確にしてみましょう。「授業で学んだこと」なのであれば、それらはきっと、なにがしか「知識」に関わることだと思われます。

 実践のマーケティングで役立ちそうな知識といえば、フレームワークに加えて、事例をたくさん知っていることが連想されるかもしれません。たしかに「事例≒実践的」と直結しそうに見えます。しかし、事例をたくさん知っていることと、事例としてとりあげられるような妙手を立案できることはかなり異なります。それぞれの事例はすべて個別で特殊なもので、実践で同じ状況に遭遇することはありません。事例から学んだことを実践に移す際には、なにがしかの抽象化を通さないと表層のモノマネになってしまい、実効性は期待しにくいものです。過去の野球の試合結果をたくさん知っていても、それだけで野球が上手になることはありません。事例に学ぶことはとても重要ですが、事例を知っているだけでは、使える知識にはなりにくいものです。

 

知識は「経験値」を稼ぐ効率を高める

 それに対して、フレームワークなどを通して概念的な「仕組み」を理解していることは、事例から普遍的な学びを得る際に役に立ちます。「筋肉の増強にはタンパク質が必要で、そのためにはタンパク質を多く含む食品を摂取する必要がある」という「仕組み」を知っていれば、肉を食べても、卵を食べても、プロテインを飲んでも、ひと通り筋肉の増強には役立ちそうだと分かります。

 そうした知識がなくても「肉をよく食べている人は、おおむね筋骨隆々だ。きっと肉が効いているのだろう」などと、個人の経験的な事例から着想するのも、自然現象を理解する方法のひとつです。ただし、こういった個々の事例にもとづいた類推だと、実は肉だけでなく大豆でも似た効果があることを見逃したり、肉といっても脂肪は含まれなかったりすることには気付きにくいかもしれません。普遍的な本質に辿り着くまでに相応の手間もかかりそうです。

 たとえば、「マーケティング活動は、プロダクトと価格と流通経路と販促活動の4つのPに整理できる」と知っていれば、マーケティング活動の包括的な議論をするときに何に気をつけるべきか分かります。新しい製品の話に終始したり、広告活動の議論だけで満足したりしてしまうことを防ぐことができます。事例から経験値を得る際にも、４Ｐの各領域でどのような活動が実施されたのか分析すれば、経緯を網羅的に把握できます。実務に就いてから活動の振り返りなどする際にも、確立された概念やものごとの仕組み、フレームワークなどを知っていれば、実践から得られる経験値を効率よく得られるでしょう。

 こうした仕組みやフレームワークを大学時代に学んでおくことは、タンパク質と筋肉の関係を知っていることが筋肉の効率的な強化に役立つように、きっと有意義だと思います。そうした知識は経験値の代わりではないので、初日からすぐに活躍できるとも限りませんが、うまく使うことができれば、早い段階から効率よく経験値を稼げそうです。将来の実践に備えて、フレームワークや概念をうまく使えるよう、習得しておいてください。

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