日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #32

ムッシッシー♪ ダメな姿になぜか愛着が湧く「ムシューダ」の人気テレビCM

 

酔っ払いの “ダメなところ”に徹底的にフォーカスした豪州のCM


 海外事例でも、ダメなところを徹底的に描いて記憶に残るテレビCMがあります。2011年のカンヌ・ライオンズでフィルム部門ゴールドを受賞した豪州のビール「カールトンドラフト」の「スローモー(slow mo)」というCMです。

 そのテレビCMは、オペラを思わせる荘厳な音楽で始まります。ビジュアルは、「カールトンドラフト」と書かれたグラスに生ビールが注がれるシーンのスローモーション映像。朗々と歌い上げられるのは、「ノーマルスピードで人を見ると、だいたい酷いものだ。けれども、スローモーションで見るとかなりマシで、私は大きな声で歌いたくなる」といった歌詞になります。
 
カールトンドラフト テレビCM 「Slow mo」

 スローモーションが続く映像は、ダイニング・バーのような場に集まる人々(酔っ払い)の「ダメな行動」を次々に描き出していきます。的を目掛けて投じられたダーツの矢は、大きくはずれて壁に突きささります。他の男性にカメラが移ると、料理に塩を少々ふろうとして先端部分がはずれてしまい大量にかけてしまいます。別の男性は生ビールを飲もうとして上手く口に運べず、周囲の人に巻き散らかす醜態。ビリヤードで打たれた球は、台の反対側で手をエッジにかけていた男性の指に当たり、本気で痛がる始末です。

 今度はお尻が見えてしまいそうなほど、ズボンがずり落ちながら椅子にドスンと座る男性がいます。洗面所で手を洗おうとして勢いよく出し過ぎた水がはねて股間を濡らしてしまう人。彼はハンドドライヤーで濡れてしまった股間を乾かそうとします。

 さらに、楽しそうに談笑する二人組。一人の口から小さな何かが飛び出して、相手の頬にぶつかります。スポーツ中継を見ているのか、盛り上がってビールを持ちながらジャンプする人々。3杯の生ビールを持った男はお盆ごとひっくり返してしまい、テーブルに座っている女性たちの料理にぶちまけてしまいます。

 とにかく誰も彼もが「カールトンドラフト」で酔っ払って、徹底的にダメな姿なのですが、みんな徹底的に楽しそうで、どこか憎めず、微笑ましささえ感じます。それは何も僕がビール好きだからという理由だけではないでしょう。

 映像がスローモーションで荘厳な楽曲が流れていると、何か不思議とユーモラスな雰囲気になります。歌に歌われているように、スローモーションだと人は少しマシに見えるなぁ、とさえ感じます。

 ひとの人生、人間の毎日はしっかりした、ポジティブなことばかりではありません。たいていの人は、ダメな部分を持っていて、それでも頑張ってなんとか生きています。だからこそ、ダメなところを上手に描くと、とても親しみが湧くのかもしれませんね。
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