日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #33

どんでん返しは、テレビCMの王道? 評判のAC広告「寛容ラップ」から考える秒数の重要性

 

母親とおぼしき女性受刑者に訴えかける娘の「どんでん返し」広告


 少し古いものになりますが、欧米流の「どんでん返しCM」優秀事例の典型として、カンヌライオンズ2004フィルム部門でゴールドを受賞した「Prison Visitor」をご紹介しましょう。

 緊張感の高い音楽が流れる中、学校の制服を着た娘と囚人服に見えるオレンジ色の服を来た母親が、ガラス越しに手の平を合わせるところからこのテレビCMは始まります。
 
「”Prison Visitor”(ユニリーバ)」

娘「いつになったらそこから出られるの?」

母親「もうしばらくね」

娘の不安で悲しそうな表情。

母親「戻らなきゃ!」

 切なげな母と娘の目線のやり取り。ここまで観た人は、多くの人が刑務所に入っている母親と、尋ねて来た娘の会話だと思うでしょう。

 次の瞬間カメラが引くと、母親がいたのが実はお風呂場で、お風呂掃除をしていたことが分かります。開始から19秒を経過した辺り、ここがいわゆる「どんでん返し」の瞬間で、人はその落差に面白みを感じるわけです。その後は、「お掃除にかける時間を減らそう」というメッセージと商品が映し出されます。

 ちなみに「寛容ラップ」60秒バージョンでは、②→③のどんでん返しの場面は開始から17秒を経過した辺りで、15秒CMでは取り得ない長さの話が前半に費やされています。いずれにせよ、視聴者が「どんでん返し」の面白さを感じるには、少なくてもこのくらいの時間が必要だということが分かります。

 また、テレビCMの題名は「Prison Visitor (刑務所訪問者)」となっていて、どんでん返し前の描写を、刑務所訪問の話だろうと考えやすいように設定されています。

 ひるがえるに、「寛容ラップ」は、先に題名を見た人にどんでん返し以降の展開を示唆する内容になってしまっています。つまり、せっかく前半で文句を言ってくるのかな?と視聴者に思わせようとする企画なのに、自ら後半の展開をバラしてしまっているわけです。この辺りも、少し惜しいなと感じました。
 
 広告表現を載せるメディアの形式によって、例えば15秒なのか30秒以上なのかによっても、クリエイティブの良し悪し(効果の程度)は変わります。引いては、ある国や文化圏の広告表現の傾向にまで影響を与えるというのは、興味深いことだなと改めて感じました。
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