2023年 注目のマーケター・企業が語る展望 #03

トップマーケターが語る2023年の展望【甲斐博一、木村幸広、田部正樹、富永朋信】③

前回の記事:
トップマーケターが語る2023年の展望【中村淳一、西井敏恭、萩原幸也、藤原尚也】②
  原材料費や物流コストの高騰、歴史的な円安、新型コロナウイルスなど、2023年も非常に不安定な時代となることが予測されます。そうした変化の激しい時代に、マーケターはどう対応していくべきでしょうか。トップマーケターが「2023年の展望」を語ります。
 

本格的なハイブリッド生活の訪れ


日本HP 経営企画本部 部長
甲斐 博一 氏

 2023年をこれまでの3年間と比較したときの大きな違いは、「本格的なハイブリッド生活」の訪れです。仕事や生活の現場を見ると、人流が2019年時に戻っている感覚もありますが、人類の知恵という視点から冷静に考えると元に戻ることはありません。そのため、デジタルの利便性とフィジカルの貴重性を組み合わせた「本格的なハイブリッド生活」が世代を超え、普通の生活として定着すると思います。

 また、2022年後半から世界中に訪れたインフレは長く続くことが予想され、生活面、ビジネス面に大きな影響を与え、生活面では消費財と耐久財のどちらにもそれぞれ変化をもたらすでしょう。消費財では、「贅沢」と「倹約」の2つの態度を使い分けるスタイルがより拡大し、消費行動の二極化を招いていくと思います。耐久財では、よいモノを選ぶ条件に「長く使える」、「サステナビリティが背景にある」という視点が重視されていくと思います。 さらに、発展するエクスポネンシャルテクノロジーの中でも規制緩和により本格的に普及することが予想されるドローンに注目すると、いくつかの大きな変化が見えてきます。

 これらを組み合わせて考えると、人が動くことを貴重な機会ととらえ、本当に価値ある「人の動かし方」を実践するマーケティングが2023年のひとつの柱となるように思います。

*エクスポネンシャルテクノロジー:指数関数的に成長していくテクノロジーのこと。人工知能やVR、AR、ドローン、ビックデータ分析などの技術が例として挙げられる。
 

「モノ」+「コト」の新しい時代へ


木村グローバルマーケティング 代表/アルダ CMO(元ユニ・チャーム 常務執行役員 グローバルマーケティングコミュニケーション本部長)
木村 幸広 氏

 ひとつ目のポイントは、私たちを取り巻く環境がどのように変化するかです。そのひとつは間違いなく「Withコロナ」だと思います。コロナは完全に終息することはないので、「Withコロナ」が前提条件の中での生活が続きます。そのため、キーワードのひとつにヘルスケアが挙げられ、自分自身を守るために人はお金をかけるでしょう。そして、これまでよりもヘルスケア関連の商品・サービスに芽が生まれるのではないかと考えます。日本人がなぜマスクを外せないのかという疑問について「みんながつけているから」という同調圧力や「Silent Bias(見えないバイアス)」など「仕方がなく」という側面がよく言われますが、私は「マスクをつけているほうがやっぱり安心だから」という本質的なニーズもあると思います。

 また、コロナ以前よりも家の中での生活を充実させようとする意識が定着し、自分が住みやすいように家の中を整え、その環境で暮らすことへの重要性も注目されるでしょう。一方で「人と話がしたい」「人と会いたい」「人と関わりたい」というコミュニケーションへのニーズも強くなることは間違いありません。そのため、コミュニケーションを活性化するための仕掛けやエンターテインメントは今後、復活してきます。それは主にオンラインではなく、物理的に会うオフラインのニーズがより顕在化し、加速していきます。

 2つ目のポイントは、円相場をどう考えるかです。日銀の政策が変わり、円高に触れる傾向にはあると思いますが、日本のモノやサービスはやはり割安だと思います。再度「MADE IN JAPAN」というブランドを海外に向けて売り込むチャンスだと思います。コロナ前のインバウンド消費が戻るかはわかりませんが、都内ホテルの宿泊者を見ていても海外の人で溢れていて、外国人観光客が確実に戻ってきていることを肌で感じています。海外の人に対して「MADE IN JAPAN」を売り、日本の商品の良さを認識してもらうことが重要になります。また、それで得た売上や収入を次の成長の芽をつくるための投資に回すこともカギになります。

 さらに、「モノからコトへ」と言われて久しいですが、私はこの考え方は間違っていると思っています。私がメーカーで長く仕事をしてきたため、多少偏っているかもしれませんが「モノ+コト」あるいは「モノ発コト」だと考えます。プロダクトアウトの発想ではなく、コトを考えるときにはモノと一緒に考えることが重要であり、「MADE IN JAPAN」のブランドもモノが強ければ、コトも強くなります。今でも日本の優位性はモノづくりにあると思うので、コトにモノを再度つなぐ認識を取り戻さなければいけません。消費者がお金を払ってくださるのは、モノでもコトでもなく『ベネフィット』に対してです。私は力のある「モノ」と、知恵の結晶である「コト」が繋がることで『ベネフィット』が最大化されると信じています。

 極端にいえば、為替などの外部環境は読めないので、自らの強みを再認識し、自ら市場をつくることが最も効果的な対策です。まさにマーケティングです。一度、立ち戻って考えて、次へのシナリオを始動するのが2023年だと思います。
 

生産性と向き合うべき1年


ノバセル 代表取締役社長
田部 正樹 氏

 2022年は、「顧客理解からの顧客価値創造」が最も重要です、という話をしました。そのテーマ自体は普遍的なので変わりませんが、我々を取り巻く経済環境は依然として先行きが不透明です。長く続く不安から、多くの会社が2008年のリーマンショックのときのようにマーケティングコストの圧縮を求められることは間違いありません。そこでテーマになるのが「生産性」です。

 生産性は投資効果なので、売上・利益を上げるか、コストを下げるかしかありません。当然、単純にコストカットをすると売上が下がり、生産性も下がる可能性があります。そうしたマクロ環境の中で、マーケターは1円でも生産性を改善するべきであるという経営目線を持ち、投資に対する説明責任を今以上に持つこと、無駄なコストがないかを改めて確認することが大切になります。そうした、守りを早めにかため、会社の方針に振り回されずに顧客や事業に向き合う時間を増やすことができる企業が、この時代で活路を見出せるのではないでしょうか。
 

マーケティングの統合と拡張の進化


Preferred Networks
SVP最高マーケティング責任者
富永 朋信 氏

 昨年の本企画で「マーケティングの統合と拡張」というタイトルで、マーケティングの営業との合一や、人事分野への拡張について触れた。このうち人事については、実際に「採用マーケティング」などの考え方が着目され、マーケティング関連のイベントなどでは人事部門のリーダーが登壇する機会も増えた。さらに、マーケティングでのキャリアを積んだエグゼクティブが人事責任者に登用されるなど、昨年よりも交流・統合・拡張が発生したように思う。

 この流れは、2023年も継続すると考える。具体的には、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とブランド構築プロセスの統合や、Valueに基づいた社員の行動を促すトリガーをマーケティング施策のような仕組みとして開発するような取り組みが起きるのではないかと思うし、自ら起こしていきたいとも願う。

 これらの考え方はマーケティングが企業全体を支える空気のような方法・思考法として昇華される可能性を示しており、この流れは来年以降もカンファレンスの同時開催や、企業内での部門統合などにより促進されると考える。

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