2023年 注目のマーケター・企業が語る展望 #04

トップマーケターが語る2023年の展望【菅恭一、西谷大蔵、藤原義明、山口有希子】④

前回の記事:
トップマーケターが語る2023年の展望【甲斐博一、木村幸広、田部正樹、富永朋信】③
  原材料費や物流コストの高騰、歴史的な円安、新型コロナウイルスなど、2023年も非常に不安定な時代となることが予測されます。そうした変化の激しい時代に、マーケターはどう対応していくべきでしょうか。トップマーケターが「2023年の展望」を語ります。
 

デジタル時代のマーケティングの3つの融合


ベストインクラスプロデューサーズ
代表取締役社長
菅 恭一 氏

 デジタル時代のマーケティングのネクストステップとして、米国企業の視察から得られた3つの融合に注目しています。ひとつ目は、「ITとCXの融合」です。すでに顧客体験を生み出すためのITインフラ整備は柔軟性の担保も含めて完了しています。この前提に立ち、競争の軸は各社の戦略に基づいた顧客体験の独自性に移行しています。

 2つ目は、「リテールとD2Cの融合」です。近年、注目されてきたD2Cブランドは、自社のECと店舗のみのチャネル戦略のため踊り場を迎えています。2022年後半から2023年にかけては、店舗展開の見直しによる収益体質の改善、リテールとの協業によるスケール化に舵を切りはじめています。

 3つ目は、「プライバシーガバナンスとブランド理念の融合」です。単なる法規制への対処ではなく、法律、IT、マーケティングが共通の上位概念であるブランド理念のもと、部門を越えて一体となり、本当にお客さまに喜んでいただけるサービスづくりを追求する動きが当たり前になっていきます。

 いずれの融合も、顧客の問題を解決するという上位の思考と、領域を越えた異能の繋がりにおいて、マーケターの活躍が大いに期待されるはずです。

 昨年、国内でも旧来型の銀行システムをカエル飛びしたクラウドベースのデジタルバンクが生まれたり、デジタルネイティブなブランド企業がマスブランドのカテゴリシェアを抜いたりするなど、新しい潮流が見えはじめました。2023年は私自身も実践者として、上記の3つの融合に注目していきます。
 

「メタバースの手前」と「AI自動生成の可能性」


ALPHABOAT 社長
西谷 大蔵 氏

 2023年の変化として、キーワードを2つ絞りました。ひとつ目は、バズワードに過ぎなかった「メタバース」が本格的にビジネスユースケースになり、さまざまな所で見かけるようになります。ただし、ヘッドマウント・ディスプレイをつけた分かりやすい形のメタバースではなく、その手前のゲームとの連動や「クロスリアリティ(XR)」的なソリューションとして次々に登場し、具体的な事例が紹介されるでしょう。別の言い方をすると「本格的なメタバースの手前のユースケース」が広がる年です。

 2つ目は、コンピューター(AI)自動生成のツールの拡大などにより広がる「マーケティングにおける新しいクリエイティブの利活用」です。昨年は莫大な数のクリエイティブをAIが自動生成して大量に作成する「ジェネラティブ・アート」と呼ばれるものがNFTなどの先進的な場でたくさん出てきました。このトレンドはさらに拡大し、動画・静止画・テキストなどクリエイティブの種類を問わず最終デザインの手前まではAIで自動生成する方が早くて数が出来る、といったところからビジネスシーンでも利活用が広がっていくと考えます。

 これにより、今までクリエイティブやデザインに投資してこなかった(したくてもできなかった)小規模企業や個人事業主から大企業まで、圧倒的な安価で利用できる。これは、著作権などの諸問題を考慮しても余りある大きな可能性とメリットであり、マーケティングにおける打ち手や可能性を間違いなく広げるでしょう。
   

OMO元年と個人の動きの活発化


ユナイテッドアローズ チーフデジタルオフィサー
藤原 義明 氏

 2023年は、日本でも新型コロナウィルスから日常を取り戻す年になることを期待したいです。経済見通しとして米欧は成長率を0%とする中、日本政府はインフレ下でも1.5%成長を予測しています。行動制限が解除されて起こることは、人流によりリアルとデジタルの世界が融合されることです。OMO(Online Merges with Offline)の、本当の意味での元年になると感じています。

 コロナ禍で最も進んだ人間の行動は、スマートフォンによる様々な行動です。今後も引き続き小さな画面への依存は強まります。その根源であるGAFA依存は、法律で規制しようがGAFAの影響はなくならず、かつそれをいち早く利用するのは企業ではなく個人です。また、インフルエンサーの活躍をはじめ個人の時代が到来しています。メディアだけでなく働き方も変化し、個人の動きはますます活発化するでしょう。
 

Connectできるマーケターは、貢献できる領域が拡がる


パナソニック コネクト 執行役員 常務 CMO
山口 有希子 氏

 ビジネスを成長させながらESG経営を実践するためには、自社の「パーパス」に共感し実践する仲間をつくることが重要です。その仲間は、社員であり、パートナーであり、お客さまであり、あらゆるステークホルダーです。 その人たちをパーパスの旗のもとに、つなぐ(Connectする)ことが、より重要な時代になっていると感じています。

 マーケターが実践している、お客さまに「知ってもらい、興味をもってもらい、利用してもらう」という行動変容やエンゲージメントのメソッドは、いろいろな分野で活かすことができます。社外向けの活動だけではなく、社内の人事・IT・経営企画・事業部などさまざまな部門で、これまで以上に必要とされています。

 重要なことは、サイロとなっている人や組織をつなぎ、パーパスのもと、より良い変革を生み出せる人・チームになれるかどうかです。つなぐことができるマーケターやマーケティングチームには、貢献できる領域や可能性がより拡がっていくと思います。

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