マーケターズ・ロード 石橋昌文 #01
ネスレ日本 石橋昌文氏がCMOを退任。38年間でたどり着いたマーケティングという仕事の価値
顧客の問題解決を通じ、新たな付加価値を生み出す
私はマーケティングを「顧客の問題解決を通じて、新たな付加価値を生み出すこと」だと定義しています。これは元ネスレ日本社長の高岡浩三さんが考えた定義で、私もこの考えに沿って行動していました。
「顧客」とは、一般的な意味ではカスタマーやコンシューマー、ショッパーを指しますが、この場合の意味はもっと広く、自分の仕事に対する相手を指しています。たとえば、人事であれば、従業員やOB・OG、就活生などが顧客になりますし、製造本部であれば、営業やサプライチェーンなどが顧客になるでしょう。そのように考えると、顧客は多岐にわたり、自分の立場によって変わります。つまり、マーケティング思考とは、マーケティング部門だけではなく、会社のあらゆる部門で成立するわけです。
マーケティングに必要なのは、「顧客」と「自分が取り組んでいること」をしっかりと認識した上で、顧客と自分を取り巻く環境がどのように変化しているかを理解することです。たとえば30年前、遠方にいる人とのやりとりは、電話か手紙に限られていました。しかし、今では無料のオンライン通話サービスを使い、顔を見ながら話すことができます。デジタルが社会を変えたわけです。これに限らず、世の中のさまざまなことが変化する中で、顧客と自分を取り巻く環境も日々変化しています。これを、私たちは「新しい現実」と呼んでいます。
その「新しい現実」を理解したら、次に新しい現実がもたらす新しい「課題」や「ベネフィット」を見つけ、その中に顧客にとっての問題がどこにあるのかを考えます。環境が変われば、新たな問題はきっと生まれます。
たとえば、かつて会社のレピュテーション(評判)は、大手メディアに取り上げられなければ、あまり世に出ることはありませんでした。ただ、今ではソーシャルメディアが普及し、思わぬところから炎上が起こりますよね。そうなると、広報の仕事や企業のコミュニケーション全般も大きく変わるわけです。これは、あくまでも一例ですが、現実が変われば、今まで気にしなくてもよかったことを、気にしなければいけなくなるといった問題が出てきます。
つまり、マーケティングとしてまずやるべきことは、「顧客」と「自分の仕事」を定義した上で、それらを取り巻く「新しい現実」を理解し、そこから生まれる「新しい問題」を発見することです。そして、その問題を解決することによって「新しい付加価値」を創造することができると考えています。これは、すべのビジネスパーソンにおいて成立する考え方だと思います。
このときに一番難しいのは、問題を発見することです。その前提としての新しい現実を理解することは、あまり難しいことではありません。なぜなら、毎日ニュースを見れば、常に新しい話題が入ってくるからです。その話題をただの情報としてインプットするだけでなく、いかに自分ごと化し、それが自分のビジネスにどのような影響を与えるのかを考えることが問題発見への第一歩だと考えています。
私は2月からネスレ日本のアドバイザリーに就任し、マーケティングの第一線からは外れることになりますが、引き続き「新しい現実」を見据え、顧客の課題解決に貢献していきたいと思っています。
※第2回に続く
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