マーケターズ・ロード 石橋昌文 #02

伝説のキャンペーン「キットカット 受験生応援キャンペーン」は、なぜ全国的なムーブメントを創出できたのか

 

キットカットの受験生応援キャンペーン誕生秘話


 そもそも受験生応援キャンペーンを思いついたのは、2つのできごとの重なりがきっかけでした。ひとつは、2001年にネスレコンフェクショナリーの体制が変わり、のちにネスレ日本の社長を務める高岡浩三さんが、当時のネスレコンフェクショナリーのマーケティング本部長として着任し、新たなメンバーでチームが発足したことです。

 彼は着任して最初に「キットカットは、『Have a break, Have a KitKat.』というスローガンをグローバルに展開しているが、日本の消費者にとっての『ブレイク』とは何なのか。また、ネスカフェも『コーヒー・ブレイク』を提供しているが、それとの違いは何なのか」とチームに問いました。この問いに対して、キットカットのブランドマネージャーをはじめ、誰も答えを返すことができませんでした。
  引用:ネスレ日本(株)KIT KATブランド公式Twitterアカウント

 そこから私たちはキットカットの「ブレイク」をどのように再定義するべきかを話し合いました。その中で見えてきたのは、日本で20年間行っていたコミュニケーションは、ブレイクをそのまま訳した「休憩」だったということです。それは勉強や仕事の合間などにキットカットを食べて休み、また元の活動に戻っていくという世界でした。

 では、「よいブレイク」とは何なのか。その問いへの答えを見つけるべく、インスタントカメラを使い、ターゲット層の方々にいろんなブレイクシーンを撮ってもらい、「普通のブレイク」と「良いブレイク」に仕分けしてもらいました。その結果出てきた「良いブレイク」とは、やるべきことをすべて終えて、あとは何もしなくていいという状況でまったりと過ごすことです。

「良いブレイク」について議論する中で、キットカットのブレイクを「ストレスからの解放」と定義づけしました。

 高校生であれば交友関係や恋愛、受験などがストレスのもとになっているので、その気持ち寄り添うことが出来ればキットカットの「ブレイク」が意味のあるものになるのではと考えました。

そんなとき、九州のあるスーパーで、1月になるとキットカットがたくさん売れているという話が入りました。そのスーパーの社長がお客さんに「なぜそんなにキットカットを買っているのか」と聞くと、子どもが受験生だから「きっと勝つと」というゲンを担いで、子どもにキットカットを渡しているのだと言っていました。
  引用:「キットカット ミニ 応援メッセージパック」 個包装デザイン (全8種)

 スーパーの社長は、その話を聞いてネスレ日本の九州支店長に「『キットカットできっと勝つ』というパネルをつくってくれ」と言いました。しかし、当時のブランドマネージャーは、ブランド名に語呂合わせはできないと、そのアイデアを却下していました。

 それが2002年の出来事です。ちょうどその頃、コンフェクショナリー内では「よいブレイクとは、ストレスからの解放なのではないか」と話をしている最中でしたので、九州のスーパーの話とシンクロし、キットカットと受験の組み合わせに可能性があるのではないかという考えに至ったのです。

 ただし、やはり「キットカットできっと勝つ」という語呂合わせは、ブランドの観点からはよくないということで「きっとサクラサクヨ」というコピーを考え、2003年1月から受験生応援キャンペーンをスタートしました。

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