マーケターズ・ロード 石橋昌文 #03

「グローバルに考えて、ローカルに行動する」 150年以上続くグローバル企業 ネスレがダイバーシティを大切にする真の理由

 

スイス本社は、「ダイバーシティ」そのもの


 ネスレ日本は外資系の会社なので、本社であるスイスで仕事をしたことも、人生の中でとてもよい経験になりました。本社の人がどのようなロジックで物事を考え、決めているかということが理解できたので、日本に帰任してからも、その経験が大いに役立ったと感じています。

 グローバルの中で人脈ができたことも大きかったです。本社にはさまざまな国から人が集まり、またそれぞれの国に散らばっていくので、2年間で多くの人と知り合えました。その後、直接的あるいは間接的に仕事をすることになったとき、あの人は自分のことを分かってくれている、信頼してくれているという関係性があるので物事がスムーズに進むことが多くありました。

 また、本社には60カ国以上にわたる国籍の人が働いているので、まさにダイバーシティが成立していました。たとえ、お互いの英語が拙くても、相手の言っていることの本質を理解しようとする、どんな立場の人でも発言したことをきちんと受け止めようとするといったカルチャーがあり、よい会社だなと改めて思いましたね。それもまた、私がネスレに勤め続けられた理由のひとつなのかもしれません。

「ダイバーシティ」が成立している理由は、スイスというお国柄にもあったと思います。スイスは、人口が800万人強の小さな国なので、ビジネスを広げようとする場合、海外に出ていく必要がありました。



 そのとき、800万人の国でうまくいったことを、同じように70億人の世界でできるかといえば、それはやはり難しいです。そのため、進出先の国の消費者に合わせた製品展開やコミュニケーションをやらなければいけないという考えが昔からあったんです。その証拠として、ネスレはグローバルキャンペーンをほとんど実施しません。なぜなら、国によって消費者が異なれば、受け止め方も異なることをわかっているためです。

 ネスレでよく言われるのは、「Think Globally, Act Locally(グローバルで考えて、ローカルで行動しよう)」という言葉です。その背景には、やはりその国に合わせた施策を打たなければ、うまくいかないということを経験の中でしっかりと理解していることが窺えます。ネスレは1866年の創業から150年以上が経ち、日本でも2023年で創業110周年を迎えます。飛行機が世の中に存在しない時代からグローバル化してきた企業だからこそ、そういったカルチャーが根付いてきたのだと思います。


※第4回に続く
続きの記事:
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