マーケターズ・ロード 石橋昌文 #04

「自分もひとりの消費者であることを忘れてはいけない」ネスレ日本 CMO退任 石橋昌文氏からのメッセージ

前回の記事:
「グローバルに考えて、ローカルに行動する」 150年以上続くグローバル企業 ネスレがダイバーシティを大切にする真の理由
  ネスレ日本に新卒で入社し、専務執行役員 CMOを務めた石橋昌文氏が、2023年1月で同社を定年退職し、アドバイザリーに就任。第一線で活躍してきたトップマーケターの石橋氏は、38年間の会社人生の中で、どのようにキャリアを歩み、その時々で何を考え、どう実行してきたのか。第4回では、社会人人生の半分を共に過ごした高岡さんとのエピソードやネスレ日本としての今後の取り組み、最後にマーケターとして大事にするべきことについて語ってもらった(全4回)。
 

絶対にうまくいかないと思うことでも、まずは挑戦する大切さ


 ネスレで過ごした38年間のうち、その半分である19年間、元ネスレ日本社長の高岡浩三さんと一緒に仕事をしました。高岡さんからは一番影響を受けましたし、私にとっては本当に濃厚な時間でしたね。

 彼はビジョナリーリーダーで、「こういうことをやりたい」というビジョンを打ち出すので、私はそれを形にして実現していく役割を担っていました。彼と私はタイプもモノの考え方も全然違いますが、だからこそうまくいったのだと思っています。

 それに彼は、非常に厳しい上司でした。こちらに無理難題(笑)を吹っ掛けては「どうすればできるかを考えるように。『できない』という言葉は、絶対に聞きたくない」と言っていました。「まずはやってみて、それがダメだったら、どこに問題があるのかを考えて、再度チャレンジする。いくらやってもダメなら仕方がないけれど、やる前からできないと言うな」と、繰り返し言われたことは印象に残っていますね。
 
石橋 昌文 氏
ネスレ日本 専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー

 1985年ネスレ日本に入社。営業本部、ネスレUKを経て、1992年 ネスレマッキントッシュ株式会社 (現コンフェクショナリー事業本部)。2年間のネスレスイス本社での勤務を経て、2005年 同 マーケティング統括部長。キットカットの受験生応援キャンペーンに携わり、成功に導く。2009年ネスレ日本 常務執行役員 コミュニケーションズ&マーケティングエクセレンス本部長、2012年チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)、2023年1月で定年退職。現在は、アドバイザリーに就任。

 正直なところ、飛んでくるボールが高すぎるので、最初はこんなの絶対にうまくいかないと思うんです(笑)。それでも挑戦しみると、意外とうまくいったりすることがある。だから、高岡さんの言うように、先入観でできるかできないかを判断することは、絶対にダメだと学びました。まずは、失敗してもいいくらいの小さな規模で挑戦して、うまくいけば、それを広げていき、うまくいかなければ方向を変えることが重要です。

 その考え方を社内に浸透させたいということで、2011年からネスレ日本で「イノベーションアワード」をスタートしました。これは冒頭で、マーケティングの定義について話したように、全社員が自分の仕事と顧客を定義し、新しい現実を理解する。そして問題を発見し、その解決策を考えて実際に業務上で実行したことを提出する企画です。社員は自らの活動内容を年1回、1枚の紙にまとめて提出します。それを事業部ごとに選出し、70~80件ほどのノミネートを決めて、最終的に全役員が評価して賞と賞金を与えます。

 この取り組みによって新しい施策が生まれたり、うまくいったことを全社に横展開していくムーブメントが起きました。高岡さんは彼のネスレでの一番の功績は、このイノベーションアワードだと思っていると言っていました。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録