マーケターズ・ロード 石橋昌文 #04

「自分もひとりの消費者であることを忘れてはいけない」ネスレ日本 CMO退任 石橋昌文氏からのメッセージ

 

ひとりの人間として消費者視点を忘れない


 最後に、私がマーケターとして大事にしてきたことを話します。

 それは、まず世の中のさまざまなことを“みる”ということです。“みる”と一口に言っても、目で見る、診断する、分析するなど、いろいろな意味があります。要するに、世の中で起きていることにしっかりと目を向けて「今、何が起きているのか」を理解することが大事だということです。
 
 そして常に考え続けることが大事です。考えたことをまずは小さな規模で実行して、うまくいったら広げる、うまくいかなければ、別の方法を考える。とにかく行動し、そこから出てきた結果を考えるということをやり続けてほしいと思います。

「エフェクチュエーション」という言葉があります。これはきっちり決まったフレームワークを実行するのではなく、まずはやってみて、その結果をベースにまた次のことをやってみるという手法です。何が起こるか分からない現代では、そういった考え方も大事だと思います。ただし、そのベースとして消費者視点や顧客視点を失わずに持ち続けるということも忘れてはいけません。

 メーカーやブランド視点の発信ばかりでは、受け手である消費者に刺さらず、興味を持ってもらえません。メーカーやブランドの言うことなんて、基本的には誰も興味がないわけです。唯一、興味を持ってもらえるのは、自分の心に刺さるコミュニケーションだったときだけです。そのため、どのようなコミュニケーションが自分の顧客の心に刺さるのかを常に考えながら実行してほしいと思います。

 社内では「レセプティビティ」という言葉をよく使っていました。ようは顧客に受け取ってもらえることを考えるということです。メディアの選択でも、ターゲットに刺さる時間帯や場所を消費者視点で考えなければなりません。人は、誰しもが消費者という面を持っています。それなのに仕事をしていると、その視点を忘れてしまうんです。社内のマーケターにも「これは、あなたのブランドの問題解決になっていて、顧客の問題解決にはなっていないでしょ」とよく言います。顧客の問題解決につながっていない施策をいくらしても、ブランドの問題解決には絶対につながらないんです。

 自分も消費者のひとりであると自覚して、どういうことを聞いたら、見たら、食べたら、心が動くのかを本気で考えなければなりません。自分がひとりの消費者であるという原点に戻ることを忘れてはいけないのです。
  
インタビュー後の石橋氏 
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