音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #44

小売業との関係強化を目指す、メーカーの行動指針とは【音部で壁打ち】

前回の記事:
マーケターが新技術に向き合うヒント【音部で壁打ち】
 

「関係強化=仲良し」は、浅薄な理解だった

 

【質問】

飴などの菓子を提供するメーカーで、マーケティング関連の仕事をしています。ドラッグストアなど小売業と関係を強化する上でのポイントがあれば、音部さんからアドバイスをいただけないでしょうか。

 ドラッグストアなどの法人クライアントとの関係強化といえば、自社と取引先という企業間の関係の話でありつつ、担当バイヤーさんやその上司の方との関係でもあります。相手が企業であれ、個人であれ、それぞれ目的の達成に役立ちそうな提案をする、というのは普遍的にうまくいく考え方のひとつです。

 私が最初に勤めた会社では、マーケティング部門の担当者がブランドマネジャーに昇格する前に、数カ月間の営業トレーニングを受ける必要がありました。それまでは取引先との関係強化といえば、親しく声を掛け合い、ときには飲みに行ったり、一緒に遊びに行ったりして友だちになることだと勘違いしていました。「関係強化≒仲良し」という浅薄な理解をしていたわけです。腕の立つ営業の多くは、取引先と仲良しに見えるので、「いい営業とは人好きなのだ」とさえ思っていました。

 物事をよくわからない間は、見えるものをそのまま認識しがちです。あまり人付き合いのよくない私には、いささか気が重いトレーニングでもありましたが、何日も営業と行動とともにするうちに、いくつか重要なことを教えてもらいました。



「関係強化≒仲良し」という誤認は、ブランドマネジメントをよく知らない人が「ブランドマネジメント≒いい感じの世界観づくり」と誤認するのに似ていると感じました。いいブランドの多くが素敵な世界観を持っていますが、いい世界観をつくればいいブランドになるわけではありません。ベネフィットに立脚した「意味」をターゲット内に確立することが必要です。意味が確立された結果、持続的な利益が生まれ、いい世界観がつくられます。

 これと同様に、いい営業の多くが取引先と良好な関係を持っていますが、仲良しになればいいというわけではありません。取引先がめざす目的の達成に貢献することが必要です。取引先の目的達成に貢献した結果、自分たちの目的も達成され、よりよい関係がつくられます。

 担当バイヤーがいま何を目指していて、上司から何を期待されていて、部門の目標に対してどのような進捗で、今期の最大の課題をどのように捉えているか。そして、大事なこととして、「何が起きたら、そのバイヤーは昇進や昇給といったキャリア上の目的を達成できそうか」、こうした事情を汲んだうえで提案すれば、おのずとバイヤーの興味を引くことでしょう。とても論理的で明確なアプローチですが、私は仲良しだから話を聞いてもらっているのだと勘違いしていたので、目からうろこでした。

 個々の担当バイヤーの具体的な目的は、自社のそれぞれの営業担当がうまく接してくれていることでしょう。マーケティング部門として、取引先企業の全体を見渡したとき、当該カテゴリーに期待されることや、彼らが考える比較対象(ベンチマーク先)などをうまく把握できると、全国レベルでも取引先の目的達成の貢献する、気の利いた販促活動や制度改革につなげられると思います。

 売上を伸ばし、利益に貢献するのは基本的で汎用性の高い活動ですが、取引先企業に固有の課題や目的達成を支援できると、前述のような活動を担当バイヤー個人だけでなく、企業全体に対して提案できそうです。おのずと関係はよくなると思います。

 お気付きのように、この考え方はドラッグストアチェーンとの関係構築に限ったものではありません。協働関係にある組織とうまく連携し、建設的な関係を構築する際に、普遍的に応用しやすいかもしれませんので、当てはめてみてください。

※連載音部で「壁打ち」の質問も募集中!音部大輔さんが皆さまからの質問に答えてくれます。こちらでお待ちしています。


 
 
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