日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #37
iPhone テレビCMのヒーローではない「サエない一般人」が不思議と共感を呼ぶ
海外の「サエない人」が強烈な存在感を発揮するSothern Comfort のCM
過去にも偉大なテレビCMはたくさんありますが、これほど、「よく意味が分からないのだけど、なんだか魅力的なテレビCM」も、あまり思い出せません。このCMは、2013年カンヌライオンズで、フィルム部門ゴールド他を受賞しました。
髭づらでサングラスをかけた、腹の出たサエない中年男が、ひたすらビーチを歩いて行く。基本的に、ただそれだけのストーリーです。テレビCMは、このオジサンのアップで始まり、やがてカメラが引いてこの男性がビーチをひたすら歩いていることが分かります。海水パンツ一丁なのに、どうも革靴らしき靴も履いているようです。開始28秒目あたりで、ビーチマットに寝そべっているお爺さんをまたぎます。途中で黒い犬がこのオジサンに付いて来て、すれ違った若い女性にちょっかいを出すような、出さないようなそぶりをします。ここまでで約60秒。その直後、なぜか突如フレームアウトして見えなくなると、10秒ほどで手にお酒(Sothern Comfort)の入ったグラスを持って、戻って来ます。
そして、グラスを持つ手と、その横にある“出っ張った腹”のアップ。男性を追いかけ続ける黒い犬。最後は、オジサンが、出っ張った腹の横で手に持ったグラス(Sothern Comfortのロゴ入り)に、Whatever‘s Comfortableと記された小さな旗が刺されているシーンで終わります。
この不思議なテレビCMがカンヌライオンズでゴールドを受賞して、正直僕は、とても驚きました。と同時に、けっこう嬉しかったのを覚えています。この一見わけの分からないテレビCMを自分は魅力的に感じていて、それを自分だけではなく、名だたる審査員達も評価したのだ、と。
キャッチフレーズの「Whatever‘s Comfortable」を僕流に訳せば、「何はともあれ、いい気分」。このSothern Comfortさえあれば、何はともあれ(何もなくても)いい気分だ、と見事に感じさせてくれると思いました。
広告と言えば、キレイなもの、カッコいいもの、スタイリッシュなものを描くという常識は、いつも正しいとは限りません。そんなにスタイリッシュじゃなく、むしろサエないことも多いのが私たちの日常だからです。上手に描けば、サエない日常こそが、魅力的な表現になり得るのだと思います。
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