【特別対談】企業マンガの可能性と未来 #02
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を手がけるコルクが「企業マンガ」に力を入れる理由【特別対談:コルク 佐渡島氏×ナノベーション中野】
『宇宙兄弟』の小山宙哉、『ドラゴン桜』の三田紀房、『働きマン』『ハッピー・マニア』の安野モヨコなど多数の人気マンガ家が所属するクリエイターエージェンシーのコルクと、日本を代表するマーケティングカンファレンスを開催するナノベーションが2023年1月から企業のブランディングを目的とするマンガ制作を共同で提供している。その活動の一貫として、コルク 代表取締役社長の佐渡島庸平氏が企業のマーケティング担当者と対談し、その企業への理解を深める連載がスタートする。
第1回は、佐渡島氏の希望でナノベーション 代表取締役社長の中野博文が登場する。前編では、なぜ企業マンガが今の時代に求められているのかという背景について聞いた。後編では、企業マンガの新たな可能性やコルクとして成し遂げたいこと、多くの人にマンガを読んでもらう方法などを探った。
第1回は、佐渡島氏の希望でナノベーション 代表取締役社長の中野博文が登場する。前編では、なぜ企業マンガが今の時代に求められているのかという背景について聞いた。後編では、企業マンガの新たな可能性やコルクとして成し遂げたいこと、多くの人にマンガを読んでもらう方法などを探った。
マンガは、マーケティング活動に貢献する新たなフェーズになる
佐渡島 最近のマンガは昔と比べて、市民権を得られたと思っています。20年前は国内映画の興行収入ランキングのトップ10のうち2~3作品がアニメでしたが、今ではランキングのほとんどを占めています。
アニメへの抵抗感はどんどん減ってきていますが、今後はAIによってさまざまなタイプの作品が制作されるようになり、その数がさらに拡大していけば、もっと身近な存在になると考えています。
佐渡島 庸平 氏
中野 AIの進化によって、マンガの絵なども変わっていくのでしょうか。
佐渡島 そうですね。現在のAIは文字や言葉による指示で1枚の絵は描けるものの、似た絵を安定して描くことはできません。また、AIに学習させるためのカラーデータは豊富にある一方で、モノクロの線画は少ないため、1つの線画データをより良いものにブラッシュアップできないという課題もあります。ただ、これは時間の問題で、2~3年後には実現できるのではないかと思っています。
中野 なるほど、マンガも時代の変化によって変わっていくのですね。今後もAIに関わっていくのですか。
佐渡島 毎日、AIのことばかり考えていますよ(笑)。将来的にAIで絵を描けるようになれば、クリエイターはより多くの時間を企業理解やストーリーづくりに割けるようになるので、よりリッチな情報を伝えられると考えています。
ビジネスの世界でも、従来は宣伝や伝える力に長けた企業が優位に立ってきた世界だと思います。しかし、本来はまず「いいもの」をつくって、その良さをしっかりと伝えることで売上を拡大していくべきだと思うんです。これからは、どんどんそのような時代になっていくと思いますし、その活動をマンガは手伝えるとも思っています。
中野 そうですね。実は今、日本のスポーツの在り方も少しずつ変わってきているんです。日本のスポーツは、もともと教育の延長線で、企業がビジネスとしてお金を入れることをあまり良しとしていませんでした。
でも、米国ではスポーツ産業が自動車産業に勝るほど大きいのです。日本のスポーツ業界も近年では、米国に追従するように少しずつ企業がお金を入れやすくなっていて、ビジネスの機会が増えています。
おそらくこの流れは、マンガにも必ず来ると考えています。これまでマンガは子どもが読むものでしたが、最近はドラマの原作になるなどイメージが大きく変わっていますよね。これからは、エンターテインメントとしてのマンガではなく、企業がビジネスとしてマンガを活用するという新たなフェーズに移っていくのではと思います。
ただ、すべての会社が自社の物語をマンガにしたら、どのような世界になるのでしょうか。
中野 博文
佐渡島 私はみんなが企業マンガを発信するようになったら、等しく価値がなくなってしまうとは思いません。それこそ、生きていれば誰もが自分だけの物語を持っているじゃないですか。もし世の中の全員がSNSで情報を発信したとしても、むしろ個々の細かな差が際立って、そこに新しい価値が生まれてくるのだと思います。
企業も同様です。その企業に売上がある時点で何らかのいい商品やサービスを世の中に価値として提供しているわけです。その良さをしっかりと伝えることで、企業と生活者の認識が一致し、関係性を長く続けることができると考えています。
これまでのマーケティングは、企業が新しいファンとの関係性を築くためのものでしたが、マンガはその関係性をより深くすることを手伝える手段のひとつであり、マーケティング活動にも大きく貢献できると思います。