日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #38
「カチカチのアイス」が“らしさ”を演出。東海道新幹線の情緒たっぷりなテレビCM
短いシーンの積み重ねで表現「ホンダ」2004年の名作CM
先にこのテレビCMのメッセージをお伝えしてしまうと、「マイカー通勤などの日常使いに相応しいクルマなら、細部までよく出来ているこのホンダUKシビックに限るよね」ということになると思います。
そのメッセージをどのような形で伝えようとしているかというと、目覚まし時計や歯ブラシといった徹底的に日常生活“らしさ”を持つ様々なもののごく短いクローズ・アップ・ショットと、間に適宜はさまれるホンダUKシビックのクルマの細部の、やはり短いクローズ・アップ・ショットの積み重ねによって、ということになります。
テレビCMは、AM7:30を指し示しているデジタル目覚まし時計のアップから始まります。そして蛇口、歯ブラシ、ジッパー、トースター、コーヒー、ゴミ捨て、ドアの施錠と、朝の日常の“らしさ”を象徴するようなモノの、ごく短いクローズ・アップ・ショットが続きます。
15秒目くらいのところで、今度はクルマの細部のクローズ・アップ・ショットに移ります。乗り込んで、エンジン・スタート。サイドミラーのウインカー、サイド・プレーキをかけて、シート・ベルトをはずして、オフィスへ到着したようです。クルマの細部をこうしてクローズ・アップ・ショットで積み重ねることにより、“細部までしっかり作られているクルマ”というアピールにも繋がっていると考えられます。
その後、オフィスでの1日に関しても、椅子やパソコン、書類へのサインなど細部のクローズ・アップ・ショットが続きます。最後にパソコンのShut Downボタンをクリックすると、再び場面はクルマの細部に移り、45秒ほど経ったところで車庫に戻り、やっとクルマの全体像が見えて来ます。
そして、ふたたび室内の様子です。ワイン・ボトルを開けて、歯を磨いて、最後はまたデジタル目覚まし時計(今度はPM11:47)が現れ、消灯となります。
日常の“らしさ”を現すモノの短いクローズ・アップ・ショットと、クルマの細部のクローズ・アップ・ショットを上手に組み合わせることで、このパートの冒頭お伝えしたメッセージを、実感を持って表現していると思います。
下手にストーリーを描き出そうとするのではなく、徹底して短いシーンを積み重ねることで、“らしさ”や“シズル感”をエモーショナルに描き出す。東海道新幹線のこのテレビCMは、そうした手法を用いることで、出張に限ったことではなく、“新幹線旅ごころ”をくすぐるクリエイティブに仕上がっていると感じました。
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