広報・PR #08

広告業界に新たな「鬼の十則」が求められている

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広告業界の課題と電通の「鬼の十則」


 広告業界のリーダーである電通は、長い歴史と伝統を背景に、広告やマーケティング領域から日本の経済成長や社会の発展に貢献してきた。

 しかし、近年は東京オリンピック・パラリンピックの談合事件、社員の過労自殺問題など、連続する不祥事が広告業界全体に影を落としている。電通だけでなく、業界全体の根本的な変革が求められているのだ。

 電通の第4代社長の吉田秀雄氏が1951年に制定した「鬼の十則」は、その時代の広告業界のスタンダードを示し、仕事に対する真摯かつ厳格な取り組みを求めていた。ただし、その内容が現代の労働環境に合わないという指摘もあり、2016年に同社の社員手帳から削除された。以下が、その「鬼の十則」である。
 
「鬼の十則」
 
  1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
  2. 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
  3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
  4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
  5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
  6. 周囲を引きずり回せ、引きずると引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
  7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
  8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらがない。
  9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
  10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

 私は今日でもなお、この十則が意味する精神は重要な意味を持っていると考える。特に「個人の責任感と自発性」「持続的な挑戦と成長」「強い計画性と前向きな態度」「革新への挑戦」「摩擦の価値の認識」といった考え方は、現代の広告ビジネスにおいて、ますます重要視されるべき要素ではないだろうか。

 広告業界が現在直面している挑戦は多岐にわたる。デジタルマーケティング領域では新興企業の出現により、電通を含む総合広告会社はいま以上の革新的なサービスを提供し、世界の変化に迅速に適応することが求められている。

 その中でも、広告会社が取り組むべきなのは「鬼の十則」の原則を現代に適応させ、再定義していくことだと考える。新型コロナウイルスの影響やDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速、そして消費者の価値観の多様化といった環境変動を前向きに捉え、クライアントと消費者を中心に据え、真の価値を提供する新たな広告業界の方向性を探求していくべきなのだ。

 クライアントのニーズ、広告業界の現状、さらには社会的要求を考慮し、これからの時代にふさわしい「鬼の十則」の精神を再定義することが必要だ。特に労働環境の改善、透明性の確保、デジタル領域のスキルアップは、新たな時代の「鬼の十則」を定義する上で重要な観点となるだろう。これらを自ら率先して宣言し、実行する姿勢そのものが広告業界の進化を切り開く可能性があると考えている。

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