音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #特別編03

マーケティング人材育成のスペシャリストが語る「勝てる組織のつくり方」【音部大輔氏×久保田達之助氏 対談】

前回の記事:
小売業との関係強化を目指す、メーカーの行動指針とは【音部で壁打ち】
 P&Gを経て、ユニリーバ、日産自動車、資生堂など数々の企業でマーケティングVPやCMOなどとしてマーケティング組織改革を実行してきた、クー・マーケティング・カンパニー 代表の音部大輔氏の新刊『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』(日経BP)の発売を記念して、同氏とフジモトHD 執行役員CMO 兼 ピップ 取締役 商品開発事業本部長の久保田達之助氏との対談が実現した。

 久保田氏は明治大学で兼任講師としてマーケティングの授業を持つほか、明治大学マーケティング研究会特別顧問、早稲田大学、慶應義塾大学、明治大学のマーケティング研究会が共催するビジネスコンテスト「compass」の顧問も務めている。また、音部氏も2023年4月から早稲田大学ビジネススクール(WBS)で、必修科目であるマーケティングを教えているほか、マーケター育成の場として「音部大輔のマーケティング戦略講座」などでも講義している。マーケティングの実務者としてだけでなく、教育者でもある2人がマーケティング人材の育成に必要なことや、これまでの経験を語った。
 
『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』(日経BP)好評発売中
 

マーケティング人材の育成には「良いマーケター」の定義が必要


――まずは簡単な自己紹介からお願いします。

音部 私は最初にP&Gに入社し、そこからずっとマーケティングに携わっています。P&Gには17年間在籍し、その後はダノン、ユニリーバ、日産、そして資生堂を経て、現在は独立してコンサルティング会社を運営しています。あと、P&Gの在籍中にMBAと経営学博士を取得しておりまして、この春から早稲田大学ビジネススクール(WBS)で、必修科目であるマーケティングを教えています。
  
クー・マーケティング・カンパニー / 代表
音部 大輔 氏

久保田 私は明治大学政治経済学部を卒業してJTBに入社し、エンタテインメント事業としてタレントやファンクラブツアーの旅行手配などを一手に引き受けるサービスを立ち上げました。その後、営業の管理職を経験し、入社17年目の際にいきなりマーケティングのトップになりました。その当時、「マーケティング」という言葉自体は知っていたものの、深い知識はなかったので、明治大学の社会人講座で学びました。これまでの経験とそこで学んだことを活かし、事業開発をいくつか手掛けた後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科ExectiveMBA1期生として学び、ドクターシーラボの取締役マーケティング部長を経て、フジモトHD 執行役員CMOになりました。

一方で、2013年から2016年までは明治大学商学部特別招聘教授、2018年からは明治大学情報コミュニケーション学部でマーケティングを教えています。マーケティングを学問として捉えて理論を教える先生はたくさんいるので、私は自社事例も含めて実践面を教えています。2011年からは明治大学のマーケティング研究会の特別顧問を務め、現在は早稲田と慶應のマーケティング研究会も含めて年間1300人ほどの学生と関わっています。


フジモトHD 執行役員CMO 兼 ピップ 取締役 商品開発事業本部長
久保田 達之助 氏


―― お二方ともこれまで多くのマーケティング人材を育成してきたと思います。その際に、重視してきたことを教えてください。

音部 企業によって理想とするマーケティング人材は異なると思いますが、まずは「良いマーケター」をきちんと定義することが初めの一歩ではないかと思います。

「良いマーケター」の定義を「売上を伸ばした人」にしてしまうことがよくあります。これは人材の選定には役立つかもしれませんが、育成という観点からは難しいでしょう。そういった定義の企業では、「このブランドが伸びたのは、あの人が天才だからだ。伸び悩んでしまったのは、あの人がいなくなったからだ」といった議論が起きがちです。

マーケターそれぞれの個性を発揮することはある程度歓迎すべきですが、そのパフォーマンスの差が少ないほうが企業としては望ましい状態です。なぜなら、その人が去れば、売上が落ちてしまい、成功の再現性が担保できなくなるからです。そのため、「良いマーケター」の定義をきちんとつくり、それに基づいて育成していく必要があります。

私が資生堂のCMO(Chief Marketing Officer)だったときは、たとえば「マーケティング部署に配属された2年目社員ならどのようなスキルを習得すべきか」、「ブランドマネージャーはどのようなスキルが必要か」といったように、良いマーケターを構成するスキルを定義しました。そして、該当者に対して、「次のプロジェクトでは、このスキルの習得を意識しよう」と働きかけました。

久保田 とても大事なことですよね。ピップでも、階層別にスキルマップを作成し、育成を始めているところです。正直、まだうまく回せているとは言えませんが、音部さんの話を聞いて、やろうとしている方向性は間違いないと確信しました。

私がマーケターを目指している学生含めて社内によく言っているのは、いろいろなチャレンジをして経験を増やし、感性を鍛えるということです。もちろん学生や社会人になったときに基礎能力を身につけることは重要ですが、人それぞれ感性は違うので、マーケターを目指すのであれば、そこをきちんと伸ばしてほしいと思っています。

たとえば、通学や通勤の途中にもいろいろな広告に触れる機会があるので、そこにどんな意図やメッセージがあるのか、自分だったらどのような広告をつくるのかなど、普段の生活から常に考えるということが大事だと思います。



音部 そうですね。マーケティングに限った話ではありませんが、人材に求められる根本的な能力は課題解決ですので、そのトレーニングを日頃から行うことが大切です。

課題解決をするためのアプローチは、大きく分けると3つあると考えています。ひとつ目は、「その課題の解決方法がわかる」です。これは、いろいろな意味で、高い認識、認知能力をもつ人などにあてはまります。

2つ目は、自分では解決方法がわからないけれど、物怖じせずに人に聞ける、あるいは失敗してもめげずに継続的に意欲を持って挑めるなど、「その課題解決に向かって行動する」です。つまり、幾多の障害を乗り越えて実行できる人ですね。

3つ目は、解決方法もわからないし、自分で実行することもできないが、「その課題解決のためにメンバーをまとめる」です。答えを見つけられる人と実行できる人をたばね、メンバー全員が力を発揮できるよう組織をまとめます。その結果、組織全体のアウトプットが上がり、課題の解決につながりやすくなるんです。

久保田 「どちらもできない人」というのは面白いですね。

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