音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #特別編04

マーケティング人材の育成に必ず求められる大切な視点とは?【音部大輔氏×久保田達之助氏 対談】

前回の記事:
マーケティング人材育成のスペシャリストが語る「勝てる組織のつくり方」【音部大輔氏×久保田達之助氏 対談】
 P&Gを経て、ユニリーバ、日産自動車、資生堂など数々の企業でマーケティングVPやCMOなどとしてマーケティング組織改革を実行してきた、クー・マーケティング・カンパニー 代表の音部大輔氏の新刊『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』(日経BP)の発売を記念して、同氏とフジモトHD 執行役員CMO 兼 ピップ 取締役 商品開発事業本部長の久保田達之助氏との対談が実現した。

 久保田氏は明治大学で兼任講師としてマーケティングの授業を持つほか、明治大学マーケティング研究会特別顧問、早稲田大学、慶應義塾大学、明治大学のマーケティング研究会が共催するビジネスコンテスト「compass」の顧問も務めている。また、音部氏も2023年4月から早稲田大学ビジネススクール(WBS)で、必修科目であるマーケティングを教えているほか、マーケター育成の場として「音部大輔のマーケティング戦略講座」を主宰している。前編では、マーケティング人材の育成に必要な定義や成果を出せた人材育成の仕組みや方法などを紹介した。後編では、マーケティングの実務者としてだけでなく教育者でもある2人が、現在のマーケティング教育についてや、ChatGPTなどのテクノロジーが発展していく中でのマーケティング人材に求められていること、マーケターを目指す学生へのアドバイスなどについて聞いた。
 
『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』(日経BP)好評発売中
 

多くのマーケターと出会い、どの領域のマーケティングを学ぶか決める


―― 大学や講座はじめ、マーケティングを学習する機会が増えていると感じます。お二人は、現在のマーケティング教育について、どう思いますか。

音部 マーケターという言葉は、アスリートと同じくらいに広い言葉だと思います。それと同様に、マーケティング人材育成と一言で言っても、それもアスリート人材育成と同じです。「アスリート人材育成にいいサービスは何ですか?」と聞いても、広すぎて答えにくいと思います。

でも、あの種目の選手になるなら、このトレーニングがいい、この故障には、こちらのお医者さんがいいなど具体的にすると答えられますよね。なので、マーケティングも自分がどこを鍛え、強化するのかによって、受けるべき教育やサービスが変わることを意識する必要があると思います。


クー・マーケティング・カンパニー / 代表
音部 大輔 氏


久保田 私はマーケティング教育では、いろんな価値観の違うマーケターと一緒に出会うことが勉強になると思っています。それこそMBAもそうでしょう。

私もMBAに行き、意識の高い人たちと一緒に学ぶことで、自分の意識が上がりました。横の繋がりもでき、卒業してからも折を見て同期と会っていろんな相談をしています。

もう一つは、福沢諭吉先生が慶應義塾大学で掲げた言葉として「半学半教」があります。「教える者と学ぶ者との師弟の分を定めず、先に学んだ者が後で学ぼうとする者を教える」という意味です。自分が学んだことを人に伝えると知識も深まるので、学ぶことだけではなく、教えるという意識を持つと良いでしょう。


フジモトHD 執行役員CMO 兼 ピップ 取締役 商品開発事業本部長
久保田 達之助 氏

 

活躍し続けるために、普遍的なスキルを獲得する


――ChatGPTなどAIテクノロジーが発展していく中で、マーケティング人材に求められる要素は変わると思いますか。

音部 私の考えをお伝えするために、ひとつ問いをご紹介しましょう。「葛飾北斎がもし現代に転生したら、役立たずの版画家か、それとも期待のアーティストかのどちらだと思いますか」というものです。

たとえば、彼を「木版画の絵師だ」と認識すると、現代では版画を見る人が少なくなってしまったので、当時ほど役には立たないかもしれません。でも、彼を「二の表現者だ」と認識し、表現方法を版画ではなくCGにすれば、現代でも必要とされるかもしれません。あるいは、「視覚の表現者だ」と認識すると、AR・VRまで拡張できるかもしれません。つまり、その人のスキルをどう捉えるかによって変わるわけです。

マーケティングのスキルもそれと同じで、たとえば、TikTokの専門家であれば、TikTokが使われなくなると仕事に困りますが、短尺コンシューマージェネレーテッド動画と音楽を掛け合わせた表現の専門家だと捉えれば、他にも活路が見出せるかもしれません。

このように、テクノロジーの実行に紐づいたスキルではなく、普遍的なスキルを獲得しておくことで、活躍し続けることができます。業界を変わっても活躍できるマーケターも、そういう人なのだと思います。

久保田 そうですよね。さきほど、音部さんがおっしゃっていたように問題解決できる能力を持っていることが最も重要です。私もまさに先日、学生から「AIについて勉強したほうがいいですか?」と尋ねられました。もちろん、知らないよりは知っていたほうが損はないですが、マーケターになりたいのであれば、どんなシチュエーションであっても、いろいろな解決方法の中から適した方法を判断できることのほうが大事ではないかと思います。

音部 それは、素敵だと思います。

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