広報・PR #10

ビッグモーター不正請求問題の社長会見、広報のプロが見ると「どこがダメだったのか」

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ビッグモーター不正請求問題


 この夏、中古車販売大手のビッグモーターは、自動車保険の保険金不正請求という重大な問題に直面しました。同社の板金塗装部門が顧客の車を故意に損傷させ、それによって保険金を不正請求していたという衝撃的な事実が、2023年7月19日に公表されました。この公表は大きな社会的反響を呼び、ビッグモーターへの批判が現在も殺到しています。

 初期の段階でビッグモーターが取った対応は、言葉を選ぶならば「沈黙」でした。それは、問題の規模と深刻さを考えると、やや無責任なものに映りました。情報を求めるメディアや一般の人々からの問い合わせに対して、十分な説明がなされないまま時間だけが過ぎていきました。

 批判が一層強まる状況で7月25日、ついに記者会見が開かれました。ビッグモーターの兼重宏行社長自らが謝罪の言葉を述べましたが、それは多くの人々が「不十分だ」と感じる内容でした。事実関係の誤認、謝罪態度の不十分さ、具体的な再発防止策の欠如など、その会見は新たな批判の火種を生み出す結果となりました。

 この一連の経緯は、ビッグモーターに対する信頼を大きく揺らがました。大きな社会問題を巻き起こした同社の対応は、どこに課題があったのでしょうか。
  
Agenda note 編集部撮影
 

ビッグモーターの初期の「沈黙」と広報の基本


 ビッグモーターの初期の「沈黙」は、広報活動の観点から見ると大きな問題でした。事態が明らかになった直後に声明を出すことは重要ですが、沈黙を続けたビッグモーターは問題の解決に向けた動きを遅らせる結果となりました。

 広報の基本は、「何が起こったか、なぜ起こったのか、どうするつもりなのか」を明確に素早く伝えることです。しかし、ビッグモーターはこの原則を無視し、問題が深刻化するまま放置して、ますます批判を招いてしまいました。

 この沈黙は、同社が問題に対して責任を逃れようとしている、あるいは事態の重大さを理解していないという印象を与えました。その結果、ビッグモーターの企業イメージは深く傷つけられ、将来的なブランド価値にまで影響を及ぼしました。

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