日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #41

衝突実験用ダミー人形なのにどこか悲しそう。iPhone緊急SOSサービスの秀作テレビCM

 

当たり前を変えれば、世界は変わる。VOLVO社E.V.A.プロジェクト


 衝突実験用ダミー人形に深く関わる海外の事例としてすぐに思い浮かぶのが、自動車会社VOLVOによる「E.V.A.プロジェクト」だ。このプロジェクトは、カンヌライオンズ2019のクリエイティブ・ストラテジー部門グランプリなどを受賞した。

 この事例によれば、現状ではたいていの自動車メーカーで、男性の衝突実験用ダミー人形を使った実験データに基づいて、クルマが設計されているという。多くの場合、長年の習慣で、当たり前に男性ダミーを使っているのだろう。そこには「女性ドライバーを考慮に入れなくても構わない」という偏見が存在している。

 そうしたことから、女性がむち打ち症になるリスクは、男性と比べてかなり高くなっているそうだ。また、女性の場合、胸部の骨格や強度の違いから、自動車事故の際に胸部に怪我を負うリスクが男性よりも高くなっている。そこでVOLVO社では、衝突実験用ダミー人形も含めて男女平等になるようデータを収集しているという。さらに実際の事故の分析など様々なデータも活用し、最適な保護機能を目指し、受ける衝撃を最小限に抑えるようなクルマの構造やシートベルト、サイド・エアバッグの開発を重ねてきた。

 E.V.A.はEqual Vehicles for All、すべての人に平等な乗り物を表す。もちろんEVA(エヴァ)と読めば、人類最初の女性と言われるイヴに由来する女性名であり、女性を強く意識したプロジェクトであることがわかる。

 さらにE.V.A.プロジェクトでは、男女平等になるように収集したデータ、その研究結果を誰でもダウンロードできるようにした。 “あらゆるクルマがより安全になることを願って”、自社の強みの源となり得る情報を、競合他社にも公開したわけだ。
 
E.V.A.プロジェクトの事例ビデオ

 この事例では、この“独自のデータの公開”も重要なポイントになっている。自社の強みを囲い込まずに、世の中のために使う。もちろん、そのことによって、VOLVOには良い評判が得られるというメリットがある。「安全なクルマ社会をリードするVOLVO」というイメージの獲得が、期待できるわけだ。

 社会的な役割を遂行しているブランドが好意を得やすいという、今の時代を象徴するような試みだと言える。

 2つの事例に見られる共通したポイントは、ダミー人形という、そのもの自体は“無味乾燥な”存在に焦点を当てながらも、ひじょうにエモーショナルな表現とし、ヒューマンなメッセージを送っていることだ。

 一見無味乾燥な存在にも(いや、そうした存在だからこそ)、アイディア次第でヒューマンかつエモーショナルなメッセージを送る手立てが、見出せるのかもしれない。
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