広報・PR #12

ジャニーズ性加害問題から考える、広告会社の責務とは?

前回の記事:
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ジャニーズ性加害問題は広告会社、メディア、クライアントに関わる


 日本の芸能界は2023年、その象徴的な存在であるジャニーズ事務所に関する衝撃的な報道により揺れ動いている。創業者である故・ジャニー喜多川氏に対する性加害疑惑が表面化し、当初の否定を経た後、事務所自らが調査委員会を設置して疑惑を認めた。そして7日には事務所が公式に謝罪し、ジャニーズ事務所 代表取締役の藤島ジュリー景子氏が責任を取って辞任するという動きが見られた。

 この事件は、日本の芸能界全体に多角的な影響を及ぼし、特に3つの点で批判が集まっている。ひとつ目は長年にわたる隠蔽行為、2つ目は被害者への不適切な対応、3つ目はマスコミの沈黙である。外部専門家による特別チームが再発防止策を提言しているものの、具体的な対策が未定である点には注意が必要だ。一部の専門家は、現在の状況を深刻に受け止め、対策の具体化を求めている。

 さらに、この問題は広告会社、メディア、そしてクライアント企業にも波及している。広告会社はクライアントの信頼を確保するためにも、所属タレントのみならず所属事務所の経営者の人格や倫理観を厳しく審査する必要がある。また、メディアは報道の自由と責任について再考を迫られ、クライアント企業もタレントをマーケティングに活用するリスクを再評価している。その中でジャニーズ事務所は、信頼回復と再発防止策の確実な実行が求められているのだ。

 今回は、この問題をきっかけに、広告会社の責務とは何か、そして改善点とは何かを探りたい。
Agenda note 編集部撮影
 

与信管理は、クライアント企業をリスクから守る「防波堤」


 まずは、タレント起用におけるクライアント側の責務について考える。その責務は多岐にわたるが、特に重要なのが「独自の倫理観」と「リスクマネジメント」である。タレントやそのグループの起用では、商業的な成果だけではなく、社会的および倫理的な責任も含まれる。特に、その選定では事前の厳格なスクリーニングと定期的な評価が必要である。

 具体的な責務としては、情報提供、決定権、社内調整、リスク評価、レピュテーション管理の5つが挙げられる。情報提供は広告会社との透明性のあるコミュニケーションが不可欠で、決定権は責任の明確化に繋がる。社内調整ではマーケティング部門以外の部署とも連携が必要となり、リスク評価には定量的および定性的な要素が求められる。そして、レピュテーション管理では、起用したタレントが問題を起こした場合の対策を事前に決める必要がある。これだけでも、さまざまな責務が存在することが分かるだろう。

 一方で、広告会社の責務についてはあまり語られてこなかったが、それは大きな誤りである。当然、広告会社もタレント選定から広告展開までのプロセスに深く関与している。クライアント企業と同様に、社会的および倫理的責任を果たすべきであり、その実現には明確なガイドラインとプロセスが必要である。

 広告会社は、単に「広告を制作する企業に過ぎない」と今でも認識されていることがある。しかし、これは明らかに広告会社の役割を過小評価しており、その役割と責任は広範囲にわたる。特に大手広告会社はメディアとの密接なつながりを持ち、社会とのコミュニケーションを担う。また、クライアント側に対してメディアや生活者に関するインサイトを提供し、市場にどのようなメッセージを訴求すればよいかという方策を練る。そして、与信管理の役割を果たすことで、クライアント企業との信頼関係を築き上げる。

 今回のジャニーズ性加害問題において重要なのは、広告会社が持つ「与信管理(保証)」の役割であると考える。与信管理とは、一般的には金融機関などによる財務関連の評価・保証と捉えられているが、コンプライアンスやガバナンスに関する公平な評価と透明性を提供することも指す。広告会社は、その役割を担うことでクライアント企業はさまざまなリスクから守られ、その結果として両者の信頼関係が深まる。与信管理は広告会社、クライアント企業、そして社会全体との持続可能な関係を築く鍵となるのだ。

 この役割はクライアント企業をさまざまなリスクから守る防波堤であり、広告会社自身が持つべき倫理観、プロフェッショナリズム、そして長期的なビジョンが必要である。契約や一時的な利益追求以上に重要な役割として評価されるべきなのだ。

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